老後2000万円問題が話題になって5年が経った。少子高齢化は加速し、円安も進む現在、日本の基礎年金問題はより深刻化しているのではないだろうか。元大蔵官僚で経済学者の野口悠紀雄氏は、厚生労働省が発表する財政検証をもとに「老後のための要貯蓄額が5000万円を超える」ケースがあると説く。さらにより最悪なケースがあるとも……。

 同氏の著書『終末格差 健康寿命と資産運用の残酷な事実』(角川新書)の一部を抜粋し、日本の年金制度の現状について紹介する。(全2回の2回目/最初から読む)

 

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蓋然性が高いのは、過去30年投影ケース

 2024年財政検証では、4つのケースが想定されている。そのうちのケース「(1)高成長実現ケース」と「ケース(2)成長型経済移行・継続ケース」では、積立金枯渇や年金額の大きな低下などの深刻な問題は生じないとされている。そして、2019年財政検証に比べると所得代替率の見通しが好転している。

 しかし、深刻な問題が生じないのは、ケース(1)と(2)に限ったことだ。そこでは、実質賃金の上昇率が、それぞれ2.0%と1.5%という非常に高い値に設定されているからだ。

 ところが、すでに指摘したように、日本の実質賃金は、長年にわたって減少傾向にある。こうした現状と比較すると、ケース(1)(2)は、非現実的だと言わざるをえない。

 そこで、ケース「(3)過去30年投影ケース。出生中位、死亡中位、外国人入国超過数16.4万人」を見ることにしよう。この場合は実質GDP成長率がマイナス0.1%なので、日本経済が現在よりかなり悪化する見通しのような印象を受ける。そして、実質GDPがマイナス成長を続けることは多分ないと考えられるかもしれない。しかし、今後の日本では、人口が減少することに注意しなければならない。そうした世界では、1人当たりGDPが増えてもGDP全体が減るのは、大いにあり得ることだ。

 しかも、ケース(3)では、1人当たりGDPの伸び率は0.7%である。つまり、豊かさという点では、現在よりも状況は改善するのだ。だから、大いにあり得るケースだと考えることができよう。というより、これは、ケース(1)や(2)に比べて、蓋然性がずっと高いケースだと考えられる。