2018年時点で1254万だったつみたてNISA(旧制度)口座数は、2024年9月にはおよそ倍の2509万にまで伸長した。岸田文雄政権下で始まった新NISAが「貯蓄から投資へ」を一気に加速させた格好だ。

 本記事の読者のなかにもNISAを利用している人は少なくないだろう。しかし、元大蔵官僚の野口悠紀雄氏は、新NISAを盲信する危険性について警鐘を鳴らす。ここでは、同氏の著書『終末格差 健康寿命と資産運用の残酷な事実』(角川新書)の一部を抜粋。現在は経済学者、経済評論家として様々な活動に取り組む野口氏の見解を紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

新NISAによる税制上の利益は大きくない

 新NISAがどれほど有利なものかを判断する場合、次の2つを区別して考える必要がある。

 (1)新NISAによる税制上の特典は、どの程度の大きさか?

 (2)資産を預金ではなく株式投資や投資信託などで運用するのは、どの程度有利か?

 まず、(1)の問題について考えよう。

 日本の税制では、株式や投資信託などから得られる収益については、総合課税ではなく、分離課税を選択することができる。税率は所得金額によらず、一律に20.315%(所得税率が15%、住民税率が5%、復興特別所得税率が0.315%)。新NISAを選択すれば、これがゼロになる(成長投資枠で240万円、つみたて投資枠で120万円、合計年間360万円まで非課税で投資することができる)。

 これは確かに税制上の優遇措置なのだが、その大きさはどの程度のものだろうか?

©AFLO

 新NISAの投資限度額は1800万円なので、毎年、順次積み立てていく場合を考えれば、平均残高が900万円だ。収益率が3%であるとすれば、収益は27万円。分離課税を選択した場合の税額は、5.5万円である。新NISAを選択すればこれがゼロになるのだが、これは、目の色を変えるほどの大きな利益とは考えられない。

 しかも、新NISAを選択した場合には、「損失の繰越控除」という税制上の特典を失うことに注意が必要だ。株式の投資はリスクが大きいため、株式や投資信託などを売却した場合に生じた損失のうち、その年に控除しきれない損失金額が残る場合がある。こうした場合には、翌年以降3年間にわたって、株式等の譲渡所得から譲渡損失の繰越控除ができる。こうすれば、平均的な税負担が低くなる。これはリスク投資に関してはかなり重要な措置なのだが、新NISAを選択した場合には、その特権を放棄することになる。

 以上を考慮すると、新NISAは、さほど大きな税制上の特権を与えているとは思えない。