宣伝に乗らないこと

 新NISAが長期的な貯蓄の手段として有利なものであるかどうかは、様々な条件に依存しており、確実とは言えない。このことを考えると、最近のNISAブームが異常なものであることを否定できない。

 ブームになっている大きな理由は、新NISAの有利性が大きく宣伝されているからだろう。金融機関が新NISAを大々的に宣伝するのは、当然のことだ。金融機関にとっては、預金を受け入れても手数料は発生しないが、株式投資や投資信託への投資であれば手数料収入が期待できるからだ。金融機関が新NISAの導入を大きな商機と考えていることは間違いない。

 

 銀行預金を宣伝する銀行はない。手数料をとれないからだ。それに対して、新NISAには、巨額の宣伝費が投入されている。手数料をとれるからだ。まずこのことをしっかり理解する必要がある。

ADVERTISEMENT

 個々の投資者の資産がどうなるかに、金融機関が本当に深い関心を寄せているかどうか、分からない。沢山売れて手数料収入が入ればよいと考えているのかもしれない。

 また、政府は、公的年金が不十分なので、新NISAで資産形成することを求めているようにも見える。しかし、これで必ず老後資金が確保できるというわけではない。

株式投資の期待収益率が高いのは、リスクが大きいから

 つぎに、前記(2)の問題、つまり、「株式投資などは預金に比べてどの程度有利なのか?」という問題を考えよう。

 株式投資などの平均収益率は、預金などの安全資産の利率に比べて高い。しかしこれは、株式投資の収益が確実ではなく、大きく変動すること、場合によっては損失を被る場合もあることなどのためのもので、当然のことだ。安全資産との収益率の差は、「リスクプレミアム」と呼ばれる。

 収益の不確実性が大きくなるほど、リスクプレミアムは高くなる。だから、平均的な期待収益率が高いからといって、格別有利な投資対象ということにはならない。

 資産保有者の立場から見て、リスクのある運用が必ずしも望ましいわけではない。

 ファイナンス理論の最も重要な結論は、「期待収益率だけを見て資産選択をしてはいけない」ということだ。