月刊文藝春秋で始まった新連載「ゴルフ春秋」。第1回では、2024年にツアー初優勝を果たした桑木志帆選手の父・正利さんが登場。快挙を遂げるまでの愛娘の足跡を語る記事全文を、特別公開します。

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全試合にマイカーで同行した父親

 志帆の昨年のツアー初優勝は感無量でした。インタビューでは「まずは親に伝えたい。裕福な方ではないのに一生懸命仕事をしてくれた。すごく有り難いと思っています」と話していましたが、近くで聞いていて、気恥ずかしかったけれどすごく嬉しかった。普段は一緒にいても会話はないんですけどね。LINEも「了解」ばかり。まだ22歳ですからね。

JLPGAツアー選手権に優勝し、祝福される桑木志帆選手 ©時事通信社

 それでもずっと二人三脚でやってきました。志帆が4歳でクラブを握ったのは、私が近所の打ちっぱなしに連れて行ったのがきっかけです。今の時代、プロゴルファーを育てるには幼少期から莫大な金がかかりますが、うちは志帆の言うとおり、決して裕福じゃなかった。妻は「プロなんて夢みたいな話だ」と大反対で、公務員になれって勧めていたんです。

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 娘がここまで来られたのも地元の方々の応援のおかげです。道具も練習場の常連さんに支援していただきましたし、私は障がい者施設の職員だったのですが、当時の理事長には様々な取り計らいをしてもらいました。岡山は渋野日向子選手の地元。ゴルフ熱も高いし、ジュニア育成に熱心な人が多いんです。

アマチュア時代から数々のタイトルを獲得した桑木選手(桑木正利さん提供)

 プロとして本格的にツアーに出るようになった2022年からは、私が全試合に同行し18ホールを歩いています。練習ラウンドも入れると週5日一緒なんですね。マイカーで会場に行くんです。