「戦闘機に竹槍で挑む」ようなAI研究開発の力の差

今井 ではまず前提知識として、研究者の目線から、今のAI開発の競争がどうなっているのか数字を交えながら少し話したいと思います。現在、最先端のAIモデルを1個作るのに、だいたいスカイツリー1本作るのと同じくらいの費用がかかります。スカイツリーは650億円ぐらいですが、一昨年のGPT-4の時に200億円くらいだったのが、開発中のGPT-5や、GoogleのGeminiを作るのに500~600億ほどかかると言われている世界なんですね。

牛尾 それ、かなり札束で殴っている感じですね!

今井 本当にその通りで、もう少し具体的に言うと、AIの研究開発力を量るとき、GPUをどれくらい持っているかで比較することがよくあります。最先端のGPUは1個500万円くらいします。日本で一番持っているソフトバンクで6000個、つまりは300億かかっています。ではアメリカの企業はどれくらい持っているのかというと、イーロン・マスクのxAI Corp.は10万個持っていて、桁2つ違うわけです。Meta社にいたっては 60万個持っていて、ソフトバンクの100倍の量です。

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 これはもうはっきり言って「戦闘機に竹槍で挑む」ような研究開発の力の差。この熾烈な争いの中で、マイクロソフトも、スリーマイル島原発を再稼働させて電力を全て生成AI開発に使うというニュースが出てましたね。

今井翔太氏

牛尾 ガチな戦いを仕掛けているのはマイクロソフトだけじゃないですが、AI開発のための大規模な電力需要を国家戦略としてトランプ大統領にサポートさせようとしているんですね。アメリカの新聞で読みましたが、トランプの大統領就任が決まった時点で、マイクロソフトはロビイストを入れ替えたみたいですね。

今井 そうなんですね。つまり、直前までは民主党が勝つ可能性が高いと思った?

牛尾 もちろん。IT界隈では、一体誰がトランプに投票するんだろうという空気感でしたが、僕らから見ても経営陣はすごいですよ。昨日までカマラ・ハリスを応援していたのに、トランプに決まったら一気に方針を切り替えて(笑)。

 前期のトランプ政権下では、テック系企業はみな移民政策のせいでとても辛い思いをしました。今回はイーロン・マスクがトランプに食い込んでいるので、彼の誘導で業界全体がこの先どうなっていくのかまだ読めませんが……、いずれにせよ国家を挙げた総力戦でAI開発に挑む流れは止まらないと思います。

常識はずれな計算資源をかけて学習させた結果……

今井 まさに。ここで、札束の話だけでは実際なにが起こっているのかみなさんわからないと思うので(笑)、近年の生成AIの劇的な進化を可能にしたものはなにか、ちょっと話そうと思います。

牛尾 ぜひぜひ。

今井 今やマイクロソフトとがっぷり四つに組むOpenAIは、なぜChatGPTを手にすることができたのか? それは端的に言って、OpenAIが「クレイジー」だったからです。2019年当時、AIは1ヶ月も学習をすれば相当良い部類だったのに、OpenAIは10ヶ月かけて、ゲームAIを作っていました。気合の入れ方が凄まじく、OpenAI FiveというゲームAIに10ヶ月オンラインゲームの学習をさせた。途中でゲームのアップデートがあって仕様変更されても大丈夫なように専用技術まで作って長期学習をしたわけです。当時Googleが大型のAIにかけた学習は44日間くらいですから、いかにOpenAIが長かったかが分かります。

 つまり、AIの言語モデルは常識はずれな計算資源をかけて学習すれば構築できることに気付いたのがOpenAIなんです。

牛尾 なるほど、面白いですね。