好きなことに夢中にならなきゃダメだ。言いたいことはそれだけ
おぐら 個人的な体感として、90年代はカルチャーの中でも音楽の優位性が高かったように思うんです。まず音楽が必修科目としてあり、そのうえで選択科目として映画や漫画、文学や演劇、お笑いといった自分の好きなものを追いかけるみたいな。
速水 音楽が王様だったのに。特に当時の渋谷は世界一レコードマニア向けの街と言われてました。
小西 そうですね。
おぐら いまは音楽にはそれほど興味ない、というような人が普通にいますよね。
小西 いますね。やっぱり音楽の影響力はとても落ちたと思う。若くて才能のある人たちは、かつては音楽やファッションに行ったけれど、今はそうじゃないでしょう。
速水 誰もが音楽マニアだった90年代。特にWAVE渋谷の2階でしたけど『M*A*S*H』や『BLOW UP』のサントラとか小西さんレコメンドが売れていた。当時のレコメンド熱ってどこから来てたんですか?
小西 大学生からピチカート・ファイヴが知られるようになるまでの間はとくに、「こんなに素晴らしい音楽、レコードがあるのに、なぜ誰も見向きもしないんだ」と本気で思っていたし、怒りさえありました。
速水 バカラックやロジャニコは基礎教養だったのが、すっかり時代が変わりました。〈ふつうの人は CDなんて もう買わなくなった〉は、Negiccoの「アイドルばかり聴かないで」の歌詞です。
おぐら 曲のタイトルにしても、〈どんなに握手をしたって あのコとは デートとか 出来ないのよ ざんねーん!!〉という歌詞にしても、アイロニカルですごくいいです。
小西 これは、照れでそういう歌詞になったんですよ。この曲で一番言いたいのは、「オタク万歳」っていうことですから。
速水 つまり小西さん自身?
小西 そう、自分のこと。ムッシュかまやつさんの「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」を自分流にしたというか。好きなことに夢中にならなきゃダメだ、っていう、言いたいことはそれだけ。ただ僕はムッシュみたいにかっこよく表現できないので、ああいう歌詞になりました。
おぐら 握手券目当てにCDを一人が何十枚、何百枚と買うことについては?
小西 それでいいんじゃないかな。普通の人はもう買わないって、本当にそういう意味だもんね。
速水 ピチカートのラストアルバム『さ・え・ら ジャポン』(2001年)は大好きな作品ですけど、ポップスの極致というか難解さがあった。ピチカート後のアイドルソングって、その反動だったりしません?
小西 難解でしたかね? 自分ではそう思ってないですけど、解散したあと最初に作ったのは『キミノヒトミニコイシテル』(2001年)ですね。
おぐら 深田恭子のこの曲と、小倉優子の「オンナのコ♡オトコのコ」(2004年)は、小西康陽ファンもアイドルソングファンも歓喜しました。
速水 この2曲にしても、「スキスキスー」にしても、野宮(真貴)さんには歌わせないだろうなっていうタイプの曲じゃないですか?
小西 あぁ、そうかもしれません。ただ、野宮さんなら「スキスキスー」は歌ったかもしれない。
おぐら 「オンナのコ♡オトコのコ」の歌詞にある、〈だけど男の子は やっぱりいつもバカで〉〈本当に本当に おバカさん〉というのが象徴的ですが、小西さんの書く歌詞に出てくる男の子はいつもダメな感じで、常に女の子が優位ですよね。
小西 自分の中にそういう部分があるんでしょうね。小学生のときは、どう考えても女の子のほうが大人だってわかってますけど、いま僕が59歳になっても、同じ59歳の女性のほうがずっと大人ですよ。そこは変わらない。