「慎吾ママのおはロック」は唯一のヒットと言っていいかもしれない
おぐら セールス的には、やはり「慎吾ママのおはロック」が最大のヒットでしょうか。
小西 そうです。僕の仕事の中で唯一のヒットと言っていいかもしれない。
速水 この曲は、いわゆるノベルティ路線ですよね。そういうお仕事への抵抗とかってないものなんですか?
小西 ノベルティソングも、コマーシャルソングも大好きです。
速水 アルバムには、ふなっしーの歌も収録されてますし。
おぐら 僕は「からあげクンの歌」がすごく好きです。
小西 あの曲、僕も大好きです。
おぐら 〈わたしの彼氏も好きです食べます デートの途中で買ったりしてます ひとつずつ食べながら 明日のこととか考えています〉という歌詞の情緒ったらないですよ。
小西 自分としては、商品名を連呼するような曲は絶対に得意だという自信はあるんですけどね。
速水 イメージソングとかタイアップソングの時代になると減りますね。三木鶏郎が生み出したCMソングの初期は、商品名を連呼するものでしたけど。
小西 でもそういう曲は、いまCMでもほとんどなくなってしまった。それとコマーシャルソングに関しては、ほとんどの場合レコードやCDにならないんですよ。僕はレコードコレクターなので、フィジカルなものが残らない仕事って、急にトーンダウンしちゃう。
速水 「V.A.C.A.T.I.O.N」もCMソングでした。ソニーのハンディビデオの。
小西 そうでしたっけ?
速水 だって歌詞にも〈パスポートととにかくビデオは忘れずに〉って出てきますよ。
小西 覚えてないなぁ。だぶん曲を作った時には、知らされてないと思う。
速水 えぇ! たまたまってことですか!?
小西 だって僕、いま初めて知りましたよ。
速水 僕は今回のアルバムの中では、この「V.A.C.A.T.I.O.N」が一番好きなんです。オールディーズ風のアレンジと由美ちゃんの無機質で他人事感のある個性がうまく融合していて。
おぐら PUFFYとして完全に売れたあとの、吉村由美のソロ曲でしたね。
速水 休みをとってヴァケーションへ行く歌なのに、「チヤホヤ」されるのも「今のうち」っていうシニカルな自己言及がすごく刹那的ですよね。
おぐら ピチカートの歌詞にしても、明るくて楽しいシーンを描いたと思ったら、急に諦観が来るんですよね。しかも曲がキャッチーなぶん、さらにそれが際立つという。
速水 めちゃめちゃ弾けているのに、一瞬、なんだこの暗さは……っていうのを抱え持つ。
おぐら 小西さんの人生観として、人生は悲劇だ、みたいなことなんですか?
小西 いや、もっと単純に、『サザエさん』のエンディングテーマ曲を聴くと日曜日が終わっちゃうっていうくらいの気持ちですよ。
おぐら 楽しい時間はいずれ終わるし、恋人ともいつか別れるかもしれないし。
速水 ハイテンションと、その後に訪れる寂しさは、背中合わせなんだっていう。
小西 いまでもはっきり覚えていることがあって。小学校の1年生か2年生の頃だったかな、冬休みが始まってワクワクしているときに、休みの間の予定表を作ったんですよ。そうしたら、やることが多くて全然遊ぶ暇がないことに気がついて。僕、大泣きしちゃったんです。そういう感じがいまでも残ってるのかもしれません。
おぐら 人生観というより、もっと日常的な感情なんですね。
小西 そうそう。だからよく言われましたよ、僕の曲はタイアップとして売り込みにくいって。
おぐら ハッピーエンドで万事快調のほうが、求められますからね。
小西 僕が書くと、ハッピーのあとに「っていうわけにはいかないよね」が付いちゃう。
速水 でも、90年代の世間のムードとしては、バブルは崩壊したとはいえ、アッパーで浮かれていました。だからポップスも明るくて元気なものが多かった。
おぐら だって僕、中学生でtrfの「BOY MEETS GIRL」聴いて、めちゃめちゃアガりましたもん。出会いこそ、人生の宝探しだ!って。
速水 ピチカート・ファイヴの歌もごきげんなテイストなのに、終わりには「これはいつか必ず終わるんだよ」って、ずっと言ってた気がするんですよ。
小西 たしかにね。そのとおりかもしれません。