レコードのコレクターだけど、ライブは一切観ない
速水 以前、野宮さんもこの連載にゲストとして来てくださったんですけど、そのときに「世界中どこに行っても小西さんみたいな男の人がいる」って。レコードマニアは人種や国境を越える(笑)。
小西 光栄です。
おぐら でも思春期に、小西さんをはじめとした文化系の先輩方に救われた男子はたくさんいます。運動ができなくても、体が弱くても、文化的教養があれば女の子にアプローチできるって教えてくれたんです。2001年の「relax」の背表紙に「ピチカート・ファイヴとフリー・ソウルのおかげで楽しい90年代でした。サンキュー。」と書いてあるのですが、本当にその通りで。ありがとうございました。今日はその御礼を伝えられたら、僕はもう満足です。
小西 いえいえ、ありがとうございます。それも光栄ですね。
おぐら それと、90年代はシティボーイズの舞台の音楽も担当されてましたよね。
小西 やってました。でも、お笑いみたいなものは好きでしたが、演劇というジャンルには抵抗があったんですよ。
速水 大の映画マニアなのに、舞台はさほど……?
小西 そうです。映画はよく観に行きますが、バレエとかを除いて、ほとんど舞台は観に行かない。同じように、音楽はレコードのコレクターだけど、ライブは一切観ないようにしてました。
おぐら 一切観ない!?
速水 わかります。小西さんパッケージマニアですよね。
小西 そういうことですね。1990年にソウル・II・ソウルというグループが来日して、そのライブを観て以来、一切行かないことにしました。
おぐら それはどういった理由で?
小西 その頃、僕も音楽業界に知り合いがいっぱい増えて、そうなると「ぜひライブ観に来てください」って、ものすごく言われるんですよ。それで「じゃあ今度行きますね」とか言いながら、実際は行かない。そういうのがイヤになったんです。
速水 義務になってしまうと。
小西 はい。
おぐら でも音楽を語るからには、ライブを観てこそっていうのが暗黙の了解みたいになってますよね?
速水 ピチカート・ファイヴのライブは、パッケージとは別の魅力がありましたけど。
小西 それはそれとして、僕のように音楽は作品しか聴かないっていう人がいても全然いいと思うんですよね。ライブに行かないことは、何も悪いことじゃない。
速水 ピチカートのメディアとしての完成度へのこだわりは尋常ではなかった。
小西 そうです。僕自身がコレクターなので、ちゃんと持っておきたいものにしたい。
速水 なるほど。では、そろそろ時間のようなので、このへんで。今日は本当にありがとうございました。
おぐら ありがとうございます。
小西 ありがとうございました。
写真=山元茂樹/文藝春秋