人口減や人道的配慮など移民や難民を受け入れるべき理由は多くあるものの、そこに摩擦はつきものだ。日本の埼玉県川口市では、暴力や圧政から逃れてきたと主張するクルド人と現地住民の衝突が起き、ヘイトデモまで起きている。「移民問題」はなぜこじれるのか? 移民問題に詳しいジャーナリストの三好範英の新刊『移民リスク』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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救急搬送の受け入れが5時間半停止
状況の悪化は看過できないとの意識が高まっていたところに、偶然ではあるが、地域を揺るがす事件が起こった。
意見書採択から5日後の2023年7月4日、川口市中央部の西新井宿にある「川口市立医療センター」前に、クルド人100人ほどが集まって、機動隊も出動する騒ぎとなり、救急搬送の受け入れが5時間半停止したのである。
同日夜、トルコ国籍の男性が複数のトルコ国籍の男から刃物で切り付けられた。被害者が搬送された医療センターに双方の親族や仲間が押し掛け、救急外来の扉を開けようとしたり、大声を上げたりした。現場は翌日午前1時ころまで混乱し、4人が殺人未遂で、警察官、機動隊員への公務執行妨害容疑で2人が現行犯で逮捕された(2023年7月30日付産経新聞電子版)。
同センターには埼玉県南部を担当する3次救急医療施設「救命救急センター」が併設されており、重篤な患者を24時間受け入れている。対象になる患者が受け入れ停止の時間にいなかったのは幸いだったが、地域の安全に深刻な影響を与えた事件だった。
この事件は傷害事件だけをとりあげても、刃物を恐らく常時携行しているという点で問題だが、とりわけ、多数が集まって来て一触即発の事態になるという展開の異様さは、クルド人に対するイメージ悪化の大きな節目となった。
在日外国人でも、例えば中国人、ベトナム人の場合、対立するグループがSNSで呼びかけて100人ほどが集合し、諍いになるといった事態はあまり考えられないだろう。
続いて、クルド人問題の特異性を印象付けたのが、少年による次のような事件だった。