2月23日、天皇陛下は65歳の誕生日を迎えられた。近年の皇室はどのように変化したのか。昭和史研究家の保阪正康氏、作家の島田雅彦氏、批評家の先崎彰容氏、名古屋大学大学院教授の河西秀哉氏の座談会を一部紹介します。

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「平成流」との比較で

 先崎 平成の天皇、つまり現在の上皇陛下こそが「公」に尽くした理想的な象徴のあり方である、と考えている国民が圧倒的に多いということも大きいですよね。その比較において、当代やその弟宮が批判されるという。

 河西 たしかに「平成流」と呼ばれる上皇陛下のあり方は、被災地訪問や戦没者慰霊に代表されるように「私」よりも「公」を重要視してきました。美智子さまのカリスマ性も相俟って、この象徴のスタイルは大成功をおさめたと言えます。ただし、続く人たちは大変です。

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天皇皇后両陛下 ©共同通信社

 先崎 実は、僕は東日本大震災の被災者の一人なんです。当時、福島県いわき市に住んでいたのでよく覚えているのですが、被災地を見舞いに来た当時の天皇皇后両陛下に対して、多くの被災者がしずかに受け入れ、歓迎する姿が中継されました。しかし、菅直人総理の慰問の際は、被災者から「もう帰るんですか!」などと𠮟責の声が上がりました。この違いは何か。大震災というあまりに理不尽な状況に、時の総理大臣に対してさえ、怒りがぶちまけられる状況だった。しかし、天皇皇后両陛下は違ったのはなぜか。

 保阪 それこそ、皇室の持つ権威の為せる業でしょうね。

 先崎 そう思います。平成流は、国民の側に近づいてはいきますが、それは「対等」ということではなくて、あくまで「寄り添い」なんですよね。これがまさに僕の思う象徴としての役割で、権威を帯びた人に寄り添われることで、国民は非合理な現実に対しても、自らの人生に物語を作って心を慰めることができた。

 河西 現在の天皇皇后両陛下も基本的には平成流を受け継いでいます。昨年、能登半島地震の被災地を三度訪れ、被災者を見舞いましたし、愛子さまも復興状況を視察する予定でした。9月に発生した豪雨災害で取りやめになりましたが。