皇族がネットに接している

 先崎 権威が、窮地にある国民に寄り添うのは非常に有り難みがあるし、皇室の存在意義を感じ取ることができる。一方で、皇室がSNSで情報を発信するのは逆効果なのではないか。昨年から宮内庁は情報発信を強化するためにインスタグラムを始め、皇居の様子や皇族の方々の写真や動画を投稿しています。天皇ご一家がタケノコを収穫する様子など、親しみやすい投稿が人気のようですが、これでは受け手に「直接対話できる」とか「対等な存在だ」という錯覚や幻想を与えてしまう。国民に過度に近づくことは、必ずしも「寄り添い」につながるわけではありません。急いで権威の階段を下りてはならない。皇室は国民に近づく戦略よりも、むしろ権威の保持に徹するべきではないかと思います。

 保阪 同感ですね。今回の「いじめ」発言で秋篠宮殿下は事実上、ネットの書き込みに接していると認めてしまったわけです。もし国民がネットで好き放題なことを書き込み、皇族がその都度いきり立つという構図が繰り返されるならば、皇族と国民は極めて不幸な関係だと言わざるを得ません。さらに言えば、皇族のディグニティ(品格)が薄れてしまう可能性もある。

宮内庁の公式SNSには、親しみやすい写真が並ぶ(宮内庁公式インスタグラムより)

 島田 私は2020年に皇族をモデルにした小説『スノードロップ』を上梓しました。作中、皇后である不二子は、「ダークネット」という政府の検閲を受けないネットワーク空間で、「スノードロップ」というハンドルネームで掲示板に政治に対する不満や本音を書き込みます。

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 しかし、この作品を書く時にも思ったことですが、現実社会では、皇族の方々が直接ネットの書き込みやSNSに接するのはかなり危ない。作中でも、皇后はジャスミンというハッカーを侍女として雇って、その手ほどきを受けながらダークネットに接していく。宮内庁にSNSに精通して皇族方のケアまでできるネットのプロがいれば良いですが、秋篠宮さまの会見を伺うに、そういう人材がいるとは思えません。

 河西 宮内庁にネットのプロはいないでしょうね。

 保阪 そもそも大衆社会で無責任な言論が飛び交うのは日常茶飯事です。現代ではフェイクニュースまがいの情報も流されている。そんなものと同次元に立って反論をすること自体、皇族のディグニティを損なうことに繋がる。皇族には、世間から何を言われようとも、果たすべき役割があると私は思います。

※本記事の全文は、「文藝春秋」2025年3月号、文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(「大座談会 皇族はなぜ日本に必要か」)。全文では、以下の内容についても語られています。
・悠仁さまが「世間」に出る意味
・皇族も「実力主義」の時代へ?
・昭和天皇、15秒の沈黙
・三島由紀夫が定義した象徴天皇
・「ハゼは馬鹿な魚ではありません」