そう、この人の人生の「嘘のなさ」は何なんだろう、と読みながらずっと思っていた。ご本人の誠実さもだし、詩にしろ語られる言葉にしろ「思っていないことを言っている(言わされている)」部分がひと言もない。わたしは、自分も含めてこんな大人に会ったことがないので、あとがきを読みうらやましくなった。でもきっと、それが特別だなんてちっとも思わない人でもあったのだろう。
最愛の妻、暢(のぶ)に先立たれるくだりで、かわいそうに、と思った。家族をたくさん見送ってきたのに、また置いていかれるんだと。でも、嵩は違うことを考えていた。涙が出た。この人は、やわらかな魂を手放さないまま本当のヒーローになったんだ。他者の痛みに自らの痛みで共鳴しながらそっと寄り添い、惜しみない愛をそそぐやさしいヒーローに。
アンパンマンは、大げさでなくすべてのちびっ子たちにとっての守護天使だ。本書を読めば、どんな子どももアンパンマンに祝福されているのだと思える。本当の言葉しか使わない嵩が「みんなの夢 まもるため」と書いたのだから。アンパンマンが守るから、光る星が消えないうちに、人生の幸せや喜びを求めて羽ばたいてほしい――アンパンマンは、いる。誰にも言えない胸の穴ぼこを知ってくれている。そう信じることができた時、フィクションは温かな血肉を備えた魂の伴侶になる。そうか、魔法って、こういうことだったんだ。
アンパンマンを通らなかったわたしの胸を、青くさみしい魂の軌跡がよぎって消えない。
