「子どもはほかの女の人とでもつくって…」祖母からの懇願

 一方ナムは、「サンを愛しているのは知っているが、ひ孫の顔が見たい。子どもはほかの女の人とでもつくって、みんなで一緒に育てよう」と祖母に懇願され、やりきれないストレスで、若い売春婦・ミミの元へ通うようになる。さらには、「稼げればいいのだろう」と投げやりになり、高額の賞金が稼げる、闇の地下格闘技へと手を染めていく。

 誰もが大切な人を愛おしく思っているはずなのに報われない。これは、サンが望まない性に生まれたせいなのだろうか?

 サンが生物学上の女性であったなら、サンとナムは幸せに暮らせたのだろうか?

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 いいや、そうではない。仮にサンが女性であったとしても、今度は「子どもが産める、産めない」という「差別」が待っていたはずだ。

太陽の下に咲く花を愛でることだけが「正解」ではない

 2014年6月19日に改正婚姻家族法が可決され、ベトナムでもようやく国内外で注目された同性婚禁止が解除 された。

 2019年には、男性同士の恋愛を描いた映画『こんなにも君が好きで goodbye mother』が公開され、ゲイやレズビアンのコミュニティへのまなざしはゆるんできたようだ。それでもなお、「トランスジェンダーのコミュニティはいまだに厳しい政府や社会的批判のなかで生きている」とメイフェア監督は述べている。

 太陽の下に咲く花を愛でることだけが「正解」ではない。

 月明かりの下で咲く花を愛おしむ。

 そんな選択を誰もが自由にできる世の中になることを、願わずにはいられない。

ナムとサン、ナムの子を妊娠したミミの「家族旅行」シーン
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『その花は夜に咲く』(英題:SKIN OF YOUTH)
3月21日(金)~シネマート新宿ほか全国順次公開
監督・脚本:アッシュ・メイフェア/出演:チャン・クアン、ヴォー・ディエン・ザー・フイ、ファン・ティ・キム・ガン、井上肇/2025年/ベトナム・シンガポール・日本/121分/配給:ビターズ・エンド/©An Nam Productions, Đông A Films, Akanga Film Asia, Bitters End, Mayfair Pictures