MLB東京シリーズが3月18日に開幕する。本シリーズでも活躍が期待される大谷翔平選手だが、そのキャリアの一つの分岐点は、2016年、北海道日本ハムファイターズへの在籍時にパ・リーグ優勝、および日本一を達成したことにあった。
 

ベストセラー『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』の著者、鈴木忠平氏の新連載「No time for doubt ―大谷翔平と2016年のファイターズ―」より、今回は大谷の本格的な「二刀流開眼」について、栗山英樹氏の言葉から探っていく。

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栗山監督の心境

『もちろん翔平のためでもありますけど、監督である僕としては、二刀流はチームが優勝するためにあるんだと、それは翔平にもずっと言ってきました。でも、勝たせてあげないとそれが(全員に)伝わらないと思うから、何とかして優勝させたかった。

 じつは翔平が入団して1年目、2年目は本当にいろいろなことがあったんです。これはなかなか言いづらいですけど、正直に言えば、チームの中でも「なんで二刀流をやるんだ?」みたいな空気があるわけです。そういうものを乗り越えて、あそこに至っている。で、それは何が凄いかと言うと、やっぱり翔平です。翔平が自分で、二刀流ができる形をすべての選手に示した。自分のプレーで伝えた。もちろん、そこまでに準備段階として時間が必要だったこともありましたが。

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大谷は優勝だけを目指し、自分を磨き続けた Ⓒ文藝春秋

 あの1カ月前、コーチの厚澤(和幸)に1番ピッチャーを考えていると言ったら、「もう好きにやってください」と呆れられたんですけど、「監督、何やっても大丈夫です。みんな分かってますから」とも言われました。僕も監督として今の空気感ならいけると思いました。チームみんなが「これ、大谷なら何かやるんちゃう?」みたいな空気ができていた。何かをしでかしてくれると信じていた。すべてのいろいろな意見を翔平が自分で、力ずくでねじ伏せていったという現実があったんです』(栗山英樹)

 

 1番ピッチャーとして打席に立った大谷がホームランを放った。スタジアムの誰もが眼前の事象に驚く中、栗山の心境はひとり異なっていた。なぜなら、栗山はそのシナリオを書いた張本人だったからだ。

栗山氏はホークスの独走を止めるために秘策を打った Ⓒ文藝春秋

 前日のゲーム前、ファイターズの指揮官は大谷を監督室に呼ぶと、彼に告げた。

「明日、1番ピッチャーで行くから」