現在、渋谷駅周辺は再開発の只中にある。女子高生のころ、安室奈美恵に憧れて渋谷へ足しげく通った社会学者の鈴木涼美さんが、この街が一体どこへ向かおうとしているのか、今一度論考する(後編に続く)。

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1997年の夏、初めて友達と渋谷まで買い物に来た日

 ムナしくて ため息が出ちゃう この街の 風に吹かれてる

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 約20年前の冬に発売された曲の歌詞が、猛烈な耳鳴りのように頭の中をよぎった。ギャル雑誌「egg」(2014年に休刊)の読者モデルだった女の子を中心に結成された3人組グループdeeps(その後のdps)のデビュー曲だ。気づけば、信号は青に変わり、自分でも意識しないまま条件反射で足は動き出していた。工事の囲いが作りかけのパズルのように見える渋谷駅を背に交差点を渡る。すぐ横で、数人の米国人らしき男がiPhoneのカメラを構え、そのさらに向こうでは三脚をガードレールに引っ掛けるようにしてやはり西洋人の男女が何かを写そうとしていた。

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 昔はこんな風にスクランブル交差点を足早に渡るなんてできなかった。初めて友達と渋谷まで買い物に来たのは14歳のときのことだ。何度か親に連れられて来ていた場所だから、ハチ公前までくればセンター街の場所も、SHIBUYA109の場所もわかると思っていたが、運悪く反対側である南口の改札を出てしまい、広がる光景は全く見慣れないものだった。友人と歩道橋に登ってみたが、246をまたぐ歩道橋からは109もセンター街のゲート看板も見えない。誰かに聞けばいいのだが、渋谷に来慣れないことが知れるのは、たとえ見知らぬ人に対してでも嫌だった。

 結局、駅員さんに教えてもらって改めてハチ公口まではたどり着いたが、履きなれない厚底サンダルですでに疲れた足元と、目の前にようやく見えた109に向かってはやる気持ちに引き裂かれて、不用意に横断歩道を歩き出した私は、正面から規則的なリズムで押し寄せる人たちと、何度も何度も正面衝突した。今思い出すと、なぜ正面から来る人を避けてうまく歩けなかったのか、その感覚がよく思い出せないが、その時のわたしは、周辺の人がなぜ器用に歩けているのか、全くわからなかった。1997年の夏のことだ。

109は、ギャルの聖地と異質な空間に変わっていた

 今ではすっかり簡単に渡れるようになった交差点を、意識もしないでさっさと渡り、外資系のボディケア商品やコスメが並ぶ「ロクシタン」や「LUSH」を横目に目の前にそびえ立つ筒状の大きな広告に目をやる。シリンダーと呼ばれるその広告は、かつてこの街に強烈なギャルブームを巻き起こした張本人の全身写真に変わっていた。

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 白の厚底ブーツにミニスカ。90年代のアムラーブームを彷彿とさせる衣装をまとった彼女に見下ろされながら、私は何十回も、何百回もくぐったエントランスを再びくぐり、エスカレーターまで直進する。95年の阪神淡路大震災で壊滅的被害を受けた靴メーカーの集まる長田地区が、当時まさに109で爆発的に人気だった安室奈美恵風の厚底ブーツの特需で一気に復興を成し遂げた、なんていう美談を思い出す。吸い込まれるように109に入ったが、そこはかつて私たちが聖地としていた場所とは、異質な空間に変わっている。