いつもの宜野湾球場に、見慣れない緑色のフラッグがはためいている。海からの強い風が一瞬旗をピンと伸ばすと、そこに「2024 NIPPON CHAMPIONS」と書かれているのがわかった。本当に日本シリーズ優勝したんだな……とじわじわと実感が湧いてくる。
慌ててスマホを構えた手が止まった。あれ、旗って撮影してもいいんだっけ。選手じゃないから大丈夫? そう思い直して再びスマホを覗く私をからかうように、風はもうチャンピオンの文字を見せてはくれなかった。
ハマスタで試合を見るだけで十分だったけど……
これで何度目の沖縄キャンプだろうか。偶然テレビに映った倉本寿彦選手に魂を打たれ、全く知らなかった野球を知って、ベイスターズを好きになって、春季キャンプにまで来るようになった。倉本選手が、何人もの好きな選手がチームを去っていった。それでも何かを確かめるように2月は沖縄にやってきた。当初は「沖縄? 1人で行くの?」と恨み顔だった夫も「どうせ行くんでしょ」と呆れ顔で送り出すようになっていた。
今日からオープン戦が始まる。もう一枚上着を持ってくればよかったと後悔した。いつもなら半袖でも問題ない気温なのに。上着の代わりに私のバッグに入っていたのは、念願の一眼レフカメラ。と言っても所有者は夫。大事なカメラを私に貸すまで、しばしリビングで夫はカメラ教習を私に課した。
ハマスタで試合を見るだけで十分だった。独特の緊張感の中で、投げて、打って、走って、滑り込む選手と、よちよち歩くかわいいマスコット、それを歓声とため息が入り混じるスタンドで見るだけで十分だった。野球を見始めてから作ったSNSアカウントを開くと、瞬間瞬間眩い輝きを放つ選手でいつも溢れている。
その写真は、私が目の前で見ていたものとも、テレビで見ているものとも、全く違っていた。いつからか、こんな写真を私も撮ってみたいと思うようになった。こっそりインターネットでカメラの価格を調べてみる。とてもじゃないけど主婦の私がおいそれと手を出せるものではない。
なぜか嬉しそうな夫
「カメラ? 俺の?」なんとなく予想はしていたけど、夫の反応は然もありなん。予想外だったのはカメラに興味を持った私に、夫がなぜか嬉しそうな顔をしていたこと。
「デイゲームは外で明るいし、ナイターも照明ガンガン効いてるから撮りやすい。だからとにかく距離が重要」
「シャッター速度も大事だね。速い被写体はシャッター速度を1/500以上は欲しいとこ」……。
普段ほとんど見ることのない饒舌な夫から出てくる言葉はまるで異国の響きだった。カメラで知る夫の新たな一面。
夫から一応のカメラ免許はもらい、沖縄キャンプが私のカメラデビューとなる……はずだった。
「一番気をつけるべきはカメラの取り扱いじゃない」夫は言う。「撮ってると思ってる以上に周りが目に入らなくなるから、人の邪魔にならないように気をつけること」
しかしカバンからカメラを出すことはどうしても躊躇われるのだ。それは夫の言葉があったからではない。