大人げないまま新型高齢者となったみうらじゅんさんによる、息苦しい社会に風穴を開けるエッセイ集『アウト老のすすめ』。「週刊文春」人気連載の原稿を加筆・修正して95本収録したこちらの新刊から一部を抜粋し、紹介する。
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これといった用事もないのに家を出て、ぶらり散歩をする。そんなぶらりに昔から憧れはあるが、どうも性に合わないらしい。
散歩は好きなほうだが、その道中でついついぶらりに反する、目的ってやつを捜してしまう。
貧乏性ってやつであろうか、目的を見つけ、それなりの達成感が欲しくなる。
JRはそんな僕のような者に時折、スタンプラリーというものを用意してくれるが、電車を利用しているようでは散歩とは言い難い。
しかし、ふだんはほとんど自宅と仕事場の往復だけ。これでは足腰が弱ってしまう。
現在、66歳。その対策として週に1度くらい散歩を心掛けているのだが、ぶらりのセンスは一向に身に付かない。
2年前のことである。
それでも努めてぶらり気分で家を出たが、ある町で見つけたブックオフに入ってしまった。
長居はしないつもりでいたが、本棚にズラリ並んだ古本を隅々まで捜索。結局、長居した。最終的に立ち止まったコーナーは“小学館てんとう虫コミックス”と、表示のあるところだった。
それは、巻数が飛び飛びで並んだ『あさりちゃん』が気になったからである。
昔、子供が通ってた児童施設に置いてあったその漫画は、よほど人気があるとみえ、かなりの冊数があった。
僕がその時、ブックオフで見たものの中で最も数字が大きい巻数は73。
いやいや本当はもっとあるに違いない……。
そう思った瞬間、閃ひらめいた。『あさりちゃん』を全巻集めることを散歩の目的にしようと。
その手始めとしてそこにあるもの全てをレジに運んだ──。

