なぜ同じようなビルが乱立する?
私はよく、建築物をお弁当箱に例えるのですが、一般的に、建築家は「かっこいいお弁当箱だけを作ってください」という依頼を受けることが多く、中身である具材はデベロッパーなどクライアントに一任されてきました。しかし私は、建築家は箱だけでなく、中身にあたる具材の構成にも積極的に関与すべきだと考えています。実際、2023年に開業した「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」の設計時には、虎ノ門というビジネスや官公庁の中枢を象徴する施設を作るべきではないかと、デベロッパーに提案しました。その提案が基になって、タワー上層階にある複合施設「TOKYO NODE」が完成しました。しかし、これまでこうした建築家からの主体的な提案があまりなされなかったために、日本では中身が似通ったビルが乱立する現状があります。駅前のビルは大体どこに行っても同じようなテナントが入っていて、建築家の個性を感じられるケースは稀です。どんなに箱をかっこよく作っても、中に入っている具材が同じだったら、同じお弁当を食べている経験にしかなりません。
これは、建築家だけの課題ではなく、社会やクライアントの建築に対するリテラシーの低さという課題でもあると思います。「デザイン性はどうでもいいから安く仕上げたい」、「箱だけかっこよければ中身はどうでもいい」という考えの施主ばかりでは、建築家が社会に変化をもたらすような提案はできません。
私は常々、建築学科の最終目標が建築家になることだけに偏っている点が問題だと思っていました。例えば芸術学科ではアーティストになることだけが目標ではなく、キュレーターやコレクター、アート系メディアに携わる人材も輩出しています。
一方、従来の建築学科では、講義を行う側もほとんどが建築家で、その結果、建築家になることが唯一のゴールとされがちです。しかし、建築というのは非常にすそ野が広い業界であり、施主やデベロッパー、政治家、財界人、行政担当者、評論家など、さまざまな分野の「理解者」が必要です。BeCATでは、講師にクライアント側の立場の人を招くなど、良い建築家だけでなく、良い理解者を育てることも重視し、建築業界全体の“生態系”の見直しを図っています。
※本記事の全文(約4700字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(重松象平「建築学科を根本から作り変えたい」)。
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