子供たちが小学校に上がる時期を目指し、パリに移住

『かくしごと』の撮影が終わったのは、渡仏するわずか2日前であった。ちゃんと荷造りする暇もないまま、慌ただしくパリへ飛び立ったという。ただし、移住する計画自体はその2年半前から、事務所に企画書を提出してプレゼンしたり、必要な手続きを確認したりと、着々と準備を進めてきた。出発を2年半後に設定したのは、上の子供たちが小学校に上がる時期を目指したからである。

2022年8月にパリに移住した(杏のインスタグラムより)

 渡仏直前の日程からもうかがえるように、それまでの彼女は公私にわたり詰め込みのスケジュールのなかで生きてきた。そこには、歴史上の人物には志半ばで倒れた人も少なくないことから、自分は少しでも悔いがないよう、できるときにできるだけのことをしたいとの気持ちがあったという。おかげで周囲からは「生き急いでるね」とよく言われていたらしい(『anan』2010年1月27日号)。パリへの移住には、そんな生き方を改めるという目的もあった。

2022年8月、渡仏前には父・渡辺謙がYouTubeに登場。親子の“初共演”を果たした(杏のYouTubeチャンネルより)

「今までみたいに頑張っちゃだめ!」という課題

 雑誌で連載中のエッセイ「杏のパリ細うで繁盛記」の第1回で彼女は、いざ移住するに際しての心境を、《「やったるぞー!」という気持ちも湧いてくるが「いやいや、違う、違う! ペースを緩めて! 今までみたいに頑張っちゃだめ!」という気持ちも。前者の方が性分であり、後者の方は課題でもある》とつづっていた(『波』2024年2月号)。実際、渡仏後は子供たちの長期休暇のたび、各地に出かけたりしては一緒に楽しんでいるようだ。もっとも、そのためにあれこれ準備に追われているのは、相変わらずといえる。

ADVERTISEMENT

 子育ても一人で抱え込んでしまうと、仕事との両立は難しく、何より精神的に追い詰められてしまうので、いろんな人に頼る大事さを強く感じているという。

『かくしごと』の一つのテーマであった介護についても、もし自分が介護する立場になったら、《現在の子育てのシッターさん同様に、行政やプロの方の手をなるべく借りて頼りたいと思います》と語っていた(前掲「LEE」ウェブサイト)。家事もやろうと思えばきっちりこなせる彼女がそう言ってくれると、他人や社会に頼ることはちっとも悪いことではないと思えてくる。