「裕福な国々に『課税』せよ」

 ベラザノ・ナローズ橋での体験がトランプの政治信条に転化して行く過程を示すのが、1987年にニューヨーク・タイムズ紙の紙面を買い上げて掲載した意見広告である。当時は、トランプが売り出し中の若手実業家として政界入りに関心を高めていた時期で、この意見広告も翌年の大統領選挙をにらんだ観測気球としての意味合いがあった。

 時あたかも日米貿易摩擦の最盛期で、意見広告も、日本を名指ししつつ、米国に対して多大な貿易黒字を抱えながら、安全保障上のコミットメントに「ただ乗り」している国々に対して厳しい態度で臨むことを求めるものであった。その冒頭、トランプは「数十年にわたり、日本やその他の国は米国を利用してきた」と記しているが、そこには愚か者として扱われてきたことに対する怨嗟がにじみ出ている。

冨田浩司前駐米大使 Ⓒ時事通信社

 さらに目を引くのは、意見広告の結論として、以下のような提言が行われていることだ。

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「我々の膨大な赤字を日本や支払い能力のある国に支払わせるべき時が来た。(中略)日本やサウジアラビアなどに同盟国として提供している保護の対価を支払わせよ。(中略)米国ではなく、これらの裕福な国々に『課税』せよ」

 ここでは彼の人生観が通俗的な政策論に結びついていることが確認されるのであるが、驚くべきはこうした政治姿勢が40年近くたった今も変化していないことだ。「課税」という言葉を「関税」に読み替えれば、昨年の選挙運動期間中の演説の一節であっても不思議はない。

※本記事の全文(約9000字)は「文藝春秋」2025年5月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(冨田浩司「トランプ外交 2つの攻略法」)。

・トランプ外交の軸は「主権主義」
・既存秩序の打破が目的
・ポピュリズム政治の限界
・ウクライナ停戦交渉に見る焦り
・ゲーツ国防長官の警告

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