トランプ政権によって「米国第一主義」の経済政策が進められている。特に「相互関税」は、日本にも大きな打撃を与えることが予想される。国際的に批判が多いこうした政策も、経済評論家の岩本さゆみ氏によれば「一貫した論理」があると語る。
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米国は日本の消費税を許さない
2025年2月、トランプ大統領は「相互関税」の大統領覚書に署名しました。
ここでポイントとなるのは、トランプ大統領が「(米国の輸出にとって)関税よりもはるかに厳しい」と問題視している「付加価値税(VAT、日本の消費税に相当)」です。VATを導入している国に対して、「関税を課しているのと同等と見なす」と強調しています。当然、日本の消費税も対象となるはずです。
2025年1月下旬の世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)でも、欧州のVATが米国企業に多大な負担となっていることに触れ、欧州連合(EU)の貿易慣行を「不公平」と強く非難しました。
「そもそもVATは不公平な非関税障壁なのか」と疑問に思う方、トランプ大統領の唐突な思いつきでしかないと考える方も多いのではないでしょうか。しかし、実情は異なります。
この問題は、日本では長らく論じられてきませんでした。日本の新聞で「消費税」が「通商問題」として本格的に報じられるようになったのは、つい最近のことです。トランプ大統領が「相互関税」の導入を表明してからです。しかし、米国の公文書からは、共和党の主流派の一部で脈々と、日本の消費税に相当するVATを「不公平な税制」と問題視してきた流れが確認できます。
共和党の伝統的な経済政策には、貿易不均衡を是正するための「ドル安」政策の流れもあります。レーガン政権下で主導・締結された1985年のプラザ合意は、米国の輸出競争力を高めるため円高・ドル安を容認するものでした。そのレーガン大統領もまた、VATに対して懐疑的な立場をとっていました。
拙著『アメリカは日本の消費税を許さない』を文春新書から上梓したのは2014年。トランプ氏が次期大統領選への出馬表明すらしていなかった頃のことです。過去数十年に及ぶ米国内のVAT議論を踏まえれば、早晩、通貨問題と併せて、VATは通商問題化するであろうとの分析を試みたのが本書です。「ドル安志向」と「VAT反対」のセットがトランプ政権で表面化するのは、ある意味“歴史の必然”でもあります。
日本の消費税に相当するVATを米国は採用していません。「米国にも消費税はある」と多くの方が思っているのは州税(小売売上税)のことで、VATと異なる仕組みの税制です。VATは、輸出品に「ゼロ税率」が適用され、仕入税額が還付されます(輸出還付金)。一方、VATのない米国では、輸出品に対する税務調整措置(輸出還付金)がなく、米企業が不利益を被っている、というのがトランプ政権の主張です。