ロシアのウクライナ侵攻に対して、日本はロシア制裁を科した。その内実と背景について、「ミスター円」こと前財務官の神田眞人氏が明かす。
■連載「ミスター円、世界を駈ける」
第1回 ウクライナ、ガザ……そのとき国際金融の現場で何が起きたか
第2回 今回はこちら
「未曾有の劇薬」を発動
日本は米国や欧州とほぼ同レベルの金融制裁をロシアに科した。なかでも、ロシアの銀行のSWIFT(国際銀行間通信協会。国際銀行間の送金や決済に利用されるネットワーク等を提供している)からの排除は未曾有の劇薬であり、その効果とリスク、副作用の可能性と影響度など、精査を重ね、資産凍結と並行して、対象指定を追加していった。かなり精緻な対象選択に努めたつもりだ。資産凍結はロシア中央銀行に加え、ロシアの金融機関13行、ベラルーシの金融機関4行に及んでいる(金融機関以外の個人・団体は、ロシア1004個人+293団体、ベラルーシ19個人+12団体、その他4団体)。
また、制裁にはスピードが重要だ。特に多国間で連携している場合、ある国に遅れが生じると、それ自体が抜け穴になると批判を受けるし、制裁効果を減殺してしまいかねない。従って、迅速な判断に努めた。特に、暗号資産が金融制裁の抜け穴として悪用されないよう、制裁の実効性を強化するための外為法の一部改正は数週間で国会通過まで持ち込み、2022年5月10日には施行されるという記録的な速さだった。
毎回の予算書の作成においてもいえることだが、財務省の現場は職務に忠実なので、無理な期限を設定されても限界まで頑張ってくれる。ただ、ワークライフバランスが重視される時代であり、過労死リスクは決して許されず、労働強化には自ずと限度があるし、ミスが発生するリスクも高まる。そういった意味では、ギリギリだったが、戦争という非常事態において、従前から研究をしていたから可能になっただけであって、前例にしてはいけない法案作成期間であることは強調しておきたい。時に政治は御無理をおっしゃることがあるので。