物価高が続き、株価は乱高下。日本経済の厳しさが顕在化してきた昨今だが、前財務官の神田眞人氏は、今が日本経済が「強く復活」するチャンスであると言う。その理由とは?

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 このままでは本当に厳しい。努力しなければかなり悲惨なことになりかねません。でも、頑張れば、未来が開ける。まだまだ日本は闘える。日本人は強い。ちょっと当たり前の努力をすれば、もっと幸せになれる。次の世代を安泰にできる。

 私たち「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」懇談会は、国際収支のレンズを通して、日本経済の課題とその対応策を議論してきましたが、これが結論です。

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神田眞人前財務官 ©文藝春秋

 国際収支は、ある期間における一国のあらゆる対外経済取引を体系的に記録したものであり、経済活動の結果を網羅的に映し出してくれます。日本経済の構造はどうなっているのか、今後、どうなるのか、どうすれば改善できるのか。こういった、私たちが日々悩んでいる分析に、国際収支の視座が有益ではないかと思いました。つまり、自分の姿を鏡で見るように、国際収支を見て、日本経済の姿を客観的に確認することが重要なのです。

 そこで本年3月、財務官だった私が主催して国際収支に関する懇談会を開催することとしました。本稿末尾に記した一覧の通り、様々な分野の第一線で活躍する論客に呼びかけたのですが、皆さん、喜んで委員に就任してくれました。そして、国際収支を「日本経済を診察するための道具」として、財務省の会議室で計5回にわたって議論を重ねたのです。

 文字通り論客ばかりで、政府への厳しいご批判も多々頂きました。報告書の作成に際しては、意見を集約するのが本当に大変でしたが、激論の結果を謙虚に取り入れています。その成果を皆さんにできるだけわかりやすくお伝えして共有し、よりよい日本社会を目指す営みの一助とするのが本稿の目的です。具体的に開陳する前に、深刻な危機感と、明るい展望について一言、触れておきましょう。

「日本は輸出立国」と学校で習った時代は遠い昔で、既に貿易収支は赤字基調です。ついに電気機器まで赤字となり、「自動車の一本足打法」になってしまいました。その自動車の競争力維持にもリスクがあり、電動化や自動化の遅れ、相次ぐ認証不正などのスキャンダルの影響が心配されています。

 輸入の方は原発停止もあって、化石燃料依存が続き、油やガスの値段に翻弄される毎日です。デジタルなどの先端的サービス分野でも赤字が拡大し、デジタル化が進展すると自動的に赤字が膨れ上がる構造になっています。企業の海外での稼ぎは増えていますが、その多くは海外で再投資され、日本に戻ってきません。そのぶんが、国内での賃金上昇や設備投資に活かされていないのです。外国から日本への直接投資は世界最低レベルが続きます。つまり、日本企業も外国の企業や投資家も日本に投資しようとしていないのです。