経常黒字は最大でも貿易で稼げていない
はじめに、経常収支の全体像を見てみましょう。
上に掲載した図表①の通り、日本は長年にわたり安定的に経常黒字を計上していますが、その内容は大きく変容しています。「貿易立国」から「投資立国」への変貌などと言われるように、黒字の主因が貿易収支から第一次所得収支、すなわち日本人や本邦企業が保有する海外資産からの利子収入や配当といった収益へとシフトしているのです。国内で生産する財・サービスの輸出ではなく、海外での生産・投資活動により黒字が支えられている、これが今日の日本の経常収支構造です。
昨年度(2023年度)の経常黒字は過去最大となっていますが、ご覧の通り、黒字となっているのは第一次所得収支だけで、貿易で稼げていません。経常黒字の恩恵が、日本国内において、あまり実感できない理由はここにあります。
ここからは、国際収支の主要項目ごとに、その動向や、そこから見える日本経済の課題を見ていきましょう。
日本の貿易・サービス収支は、近年は赤字基調にあります。その背景には、日本経済が抱える複数の構造的要因が横たわっています。
「自動車の一本足打法」にはリスクがある
第一に、自動車に匹敵する稼ぎ手の不在です。冒頭で「自動車の一本足打法」と申し上げましたが、貿易収支を主要品目別に見ると、自動車等の輸送用機器が一貫して大幅な黒字を計上しています。これに続き、半導体製造装置等の一般機械も頑張っています。他方、かつては自動車と並ぶ黒字の稼ぎ頭であった電気機器(家電、スマホ等)は、2022年度に初の輸入超過を記録しました。
このように日本の貿易収支は総じて自動車に依存していますが、現在、CASEといわれる自動化・電動化等により自動車業界を取り巻く環境が激変しています。近年、続発している一連の認証不正などによる信用失墜も心配です。こうした中で、仮に自動車産業の国際競争力に揺らぎが生じた場合には、貿易収支の一層の悪化は避けられません。自動車という競争力ある輸出セクターを有していることは誇るべきでしょうが、いかんせん、「一本足」は不安定でリスクを伴います。自動車以外の分野、とりわけ先端分野において、輸出産業の国際競争力を維持・強化することが求められます。
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本記事の全文は「文藝春秋 電子版」と「文藝春秋」9月号に掲載されています(「日本はまだ闘える」)。全文では、以下の項目について、神田前財務官が詳しく解説しています。
●円安が輸出拡大につながらないワケ
●インバウンド黒字をデジタル赤字が食いつぶす
●海外からの対日投資は北朝鮮以下
●新NISAの投資額は増えているが……
●労働移動で生産性を上げた米国
●補助金バラマキをやめて企業の新陳代謝を
【文藝春秋 目次】芥川賞発表 受賞作二作全文掲載 朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」 松永K三蔵「バリ山行」/神田前財務官「日本はまだ闘える」/睡眠は最高のアンチエイジングⅡ
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