〈他国がやっているような、市場メカニズムに新陳代謝をゆだねて生産性や賃金の上昇を図るといった普通の政策をしっかり実施するだけで、日本は強く復活することができます。というのも、数十年、給与水準も投資も滞っていた日本には大きな伸びしろがあるのです〉

 そう綴るのは、内閣官房参与の神田眞人氏だ。7月末まで次官級ポストの財務官を務め、歴史的な円安への対応に奔走。「為替介入の指揮官」として注目を集めた。

歴史的円安に対応してきた神田前財務官 ©文藝春秋

あらゆる角度から日本経済の問題点を洗い出した

 そんな神田氏は、かねてから日本経済が抱える構造的な課題を憂慮してきた。今年3月には大和総研副理事長の熊谷亮丸氏や、慶應義塾大学の小林慶一郎教授、土居丈朗教授、三菱総合研究所執行役員兼研究理事の武田洋子氏、BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミストの河野龍太郎氏ら20名の論客に呼びかけ、財務省の会議室で5回にわたって、「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」懇談会を開催。国際収支を「日本経済を診察するための道具」として、あらゆる角度から日本経済の問題点を洗い出し、分析・議論してきた。今回、懇談会の成果を広く伝えるため、神田氏自身の思索も加えて「文藝春秋」9月号に緊急寄稿(全18ページ)した。

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神田前財務官 ©文藝春秋

輸出は自動車に偏重…「輸出立国」は昔のこと

 神田氏が指摘する日本経済の課題は、シンプルだ。かつて日本は「輸出立国」と学校で教わったが、それは昔のことで、近年は貿易赤字だ。海外への輸出は自動車産業に偏重し、国内は高騰する化石燃料の輸入に依存している。さらに日本企業は海外生産にシフトし、そこでの稼ぎは海外での再投資に使われるため、国内に還元されるのは約半分でしかない。

 さらに問題なのが、拡大を続ける「デジタル赤字」だ。これは日本人や日本企業がGAFAなど巨大IT企業に支払う、クラウド・サービスやオンライン会議システムの利用料や、動画・音楽配信に伴う各種ライセンス料を指す。年々拡大を続け、2023年度は5兆円を超える赤字になる見通しだ。