なぜ消費税が「非関税障壁」なのか

 元米通商代表のライトハイザー氏は、自著(No Trade Is Free)で、VATについて詳述し、次のような世界貿易機関(WTO)批判へと繋げています。

「VATは輸入を抑制して輸出を促進することで国内産業を保護する傾向がある。所得税はWTO規則上、輸出時の還付ができないが、VATはすべての輸入品に課され、輸出される製品からは差し引かれる」

岩本さゆみ氏

 より具体的には、EUの平均VAT税率21%を例に、以下のように解説しています。

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・ニューヨークで100ドルの米製品は、欧州では121ドルになる。
・パリで100ドルの欧州製品は、輸出還付金のため米国では79ドルになる。

 この差額である42ドルが、EUのVATが生み出す「障壁」であり、EU企業は輸出時のVAT控除により、価格競争で優位に立てる、としています。米国の政財界は、このVATの還付(輸出還付金)を認めるWTO規定を「貿易制度の歪み」として長年問題視してきました。

 現在、約150カ国で採用されているVATは、歴史を振り返れば、1954年にフランスが初めて体系的に導入したとされています。

 当時は、第二次世界大戦後で、戦勝国だった米国が世界最大の貿易大国でした。欧州も戦勝国でしたが、戦地になったために物質的な資産は喪失。そのため自国の経済を盛り立てることが急務となり、輸出企業に頑張ってもらうしかないという発想で「輸出補助金」の提供を考えました。しかし、当時の「関税および貿易に関する一般協定(GATT)」の下では、自国企業への補助金は自由な貿易の原則に反するとの理由で規制を受けることになります。

 そこでフランス政府は、「自国の輸出企業へ補助金を与える合法的手段」としてVATを考案したのです。「付加価値税」という名称ですが、実質的には輸出企業を援助する目的が強い税金として活用が始まった、と米公文書は記しています。

※本記事の全文(約6000字)は「文藝春秋」2025年4月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(岩本さゆみ「トランプ大統領 次の獲物は日本の消費税〈投資家必読!〉」)。全文では、下記の内容をお読みいただけます。
・「ドル安」を望むトランプ
・「ドル安」による借金の軽減
・「外需」か「内需」かという選択
・第二次大戦後の世界経済の転換点