映画の設定は1838年のドイツとなっており、オルロックが海を越え自分の住む町へやってくる恐怖を、当時ヨーロッパに長く続いていた黒死病(ペスト)への恐怖に重ね、本物のネズミを使ったシーンが観る者を震撼させる。美男子スカルスガルドが、全く別人のような邪悪なオルロックに変身した演技も見ものだ。

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社会への違和感は現代にも通じる

 19世紀の華麗な衣装に身を包みつつも、本作は時代劇というわけではなく、自らの運命を選ぶエレンは女性の自立という観点から見れば、現代的な女性にも映る。

「だからこそエレンという役に惹かれたの。内部で様々な葛藤が起こっている複雑な人格が魅力だった。光が差しているときもあれば、闇を抱えているときもある。当時の社会的な空間や歴史的な状況が彼女を複雑な存在にしていた。社会に受け入れられるために女性がしなければならなかったことも多く、エレンにとってそれらの状況からくる心の闇は大きかった。だからこそ、エレンを理解し、闇に囲まれた彼女を良い方向へと導いてくれたウィレム(・デフォー)の演じるフォン・フランツとの関係が特別だったと思う」

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 そして、エレンの生きる19世紀の女性の社会的な状況には、現代に通じるものがあると、リリー=ローズは言う。

「1838年と現代では女性の環境は全く違うけれど同時に共通点もある。エレンの感じている社会に対する違和感などは現代社会にも存在すると思う。だからこそ、私はエレンに興味を惹かれた」

 恋人に性別を問わないことを公言し、自身の自由なセクシュアリティについても堂々と発信してきた彼女らしい発言と言えるだろう。

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 最後に、俳優一家に生まれ育った環境から、現在の道を選ぶのは自然な成り行きだったのか、彼女自身の生き方について尋ねた。

「演技をすること、俳優になることは幼い頃からの夢だったから、夢がかなったと感じている。演技に情熱を感じるし俳優として成長できることに感謝している。様々な異なる役をもらい、いろんな監督から様々なことを学べて嬉しい。1本1本をこなすごとに、多くの貴重なことを学んだと感じる。現在の自分が俳優としてここにいるのは、これまでの役を積み重ねてきた結果。今、初めてやった役を見直せば、『もっと違った演技ができたのに』と感じるのは事実だけど、それは他の役を演じて学び、成長してきたからだと思う。これからも学び続けていきたい」

『ノスフェラトゥ』
​監督:ロバート・エガース/出演:リリー=ローズ・デップ、ビル・スカルスガルド、ニコラス・ホルト、アーロン・テイラー=ジョンソン、ウィレム・デフォー/2024年/アメリカ・イギリス・ハンガリー/133分/配給:パルコ ユニバーサル映画/5月16日(金) TOHOシネマズ シャンテほかにて公開/© 2024 Focus Features LLC. All rights reserved.