その後、友美さんの妊娠が判明した。井上が勢いでセックスした日と、客がセックスした日は2日ほどしか離れていなかった。それでも井上は「むやみに子どもを堕ろして彼女を傷つけたくない。それより法的に自分のものにしたい。子どもは2人で育てていけばいい」という考えを優先して入籍することにした。
入籍後も浮気を続けていた被害者
ちょうど友美さんが勤めていたデリヘルは閉店することになったので、それを機に友美さんは風俗から足を洗った。井上は相変わらず風俗店で働いていたが、積極的に家事を担当するなど、献身的に尽くしていた。自分のバッグを売って結婚指輪を買ったが、もっといい指輪を贈ろうと、酒店の倉庫でもアルバイトを始めた。
だが、そんな状況にあっても、友美さんは寺島との密会を繰り返していた。
ある日、「実家に行く」と言って外出した友美さんが、車の芳香剤の匂いを漂わせて帰宅したことから、追及したところ、「寺島と会っていた」と告白。「携帯を見せてみろ!」と迫る井上と大喧嘩に発展し、そのことについては友美さんの両親が厳しく叱責して、元の鞘に納まった。
ところが、疑念がぬぐえない井上は、たびたび友美さんの携帯を盗み見て、大喧嘩に発展。逆に携帯を勝手に見たことをとがめられて、友美さんに開き直られたため、怒った井上は離婚届にサインして、友美さんに突き付けた。
「あ、そう。これにサインすればいいのね」
泣いてすがりついてくると思ったのに、友美さんは動揺する様子もなく、あっさりサインした。
「私はもっといろんな人と遊びたかった。あなたが子どもを産めと言うから、仕方なく結婚した。もともと性格も合わなかった」
驚いた井上は友美さんの母親に相談したが、「この結婚は正しかったのか」と逆に問いただされ、友美さんの父親にも「子どもが産まれたら、また会いにこればええ」と言われた。
友美さんに反省を促すためだけに書いた離婚届は、その後、友美さんの両親の手に渡り、市役所に提出されてしまったのだ。
井上は愕然とし、土下座して謝ったが、時すでに遅しだった。
「私もあなたのことが好きなうちに別れた方がいいと思うの。私は結婚に向いていなかった。家事もしんどかった」
ついに「殺してやる!」と決意
井上は失意のどん底に沈んだまま、2人で住んでいた新居を出て行くことになった。なぜこうなったんだろう。もともと彼女と同棲を始めた風俗店の寮に1人で帰り、胸が張り裂けそうな気持ちになった。
事件当日、井上は仕事後に吸い寄せられるように友美さんの住むマンションに向かった。彼女も失意のどん底にいるだろうか。そこで壁に耳を当て、寺島と楽しげに話す電話の内容を聞いてしまったのだ。
「好きよ。愛してる。あなたの考えることはよく分かるけど、井上の考えることはよく分からなかったわ」
寺島に対する愛の言葉と自分を罵るような言葉。聞いたこともない楽しそうな笑い声。はらわたが煮えくり返るほど怒った井上は、「殺してやる!」と決意した。
いったん自宅に戻り、レンタカーを手配。リネン袋とダンベルを車に積み、途中のホームセンターで虎柄のロープを購入。「荷物を取りに来た」と言ってドアを開けさせ、押し入るや一気に首を絞めて殺害したのだ。
