「弟の遺体は、住んでいる地域とは違う場所の山中で見つかったんです。一人で練炭を使って亡くなっていました」

 幼い頃から父親に性的虐待を受けていた姉弟。その心理的な後遺症は、大人になったあとでも続き、ついに弟は自殺を選択してしまう…。2人の父親はどんな人間だったのか? 弟を逃がそうとした姉が取った行動とは? フリーライターの渋井哲也氏の新刊『子どもの自殺はなぜ増え続けているのか』(集英社)より一部抜粋してお届けする。(全3回の3回目/最初から読む)

写真はイメージ ©getty

◆◆◆

ADVERTISEMENT

「母には、父を殴って殺してほしかった」

「隣に座っていた母に、父が『ほら見て。入った。入った』と言ったんですが、母は『何をしてるの?』と笑って見ているだけ。母には、父を殴って殺してほしかったと、今では思います。性交はほぼ毎日で、終わったあとは必ず『誰にも言うんじゃないぞ』と念を押されました」

 弟だけでなく、リツコ自身も死にたいと思ったことがある。

「『死にたい』とか線路に飛び込みたいって気持ちにはなったことあります。もうこのまま殺してくれって思いました」

 児相に保護されてもすぐに戻されてしまう。

 性的虐待だけでなく、身体的虐待も悲惨だったという。

「虐待という虐待はすべてやられました。腕を縛られて紐で吊るされて、ベルトとか濡れたタオルとか、洗濯機のホースとかで殴られました。そうすると傷ができるので、その部分に酢やしょうゆをかけられました。すごく痛かった」

「そしてうつ伏せにさせられて、他人から見えない背中やお尻とかを、布団叩きで殴られました。下着を全部剝ぎ取られ、殴られ続けました。理由は何もありません。ひたすら叩かれていました。泣くと、『うるさい。黙れ。声を上げるな』と言われて、さらに殴られました。父が疲れると、弟や妹に『やれ!』と命令して、やらせていました」

 こうした状況でリツコは弟を逃したことがあった。