私はこのVIP待遇を見て自分を完全に天才だと確信した。これは田舎特有の現象だろう。東京や大阪ならもっとレベルの高い塾が乱立しているし、周りに自分より出来る人間はいくらでも見つかったはずだが、私のいた滋賀の田舎町には、私を超える人間が見当たらなかったのだ。
視野が狭すぎる、と言われればその通りなのだが、まだインターネットも発達していなかったし、SNSなんて影も形もなかった。私には遠くにいる強豪の姿が見えていなかったのである。しかし、この視野の狭さが私の勢いを加速させた。「自分は天才だ」という思い込みは、私を勉強にドハマリさせたのである。
私は神に与えられたこの才能を腐らせてはならないと思い込み、勉強に勉強を重ねた。勉強していない時間をいかに減らすかということにこだわり、風呂に入る前には間違えた問題を紙に書き、風呂の壁に水分で貼り付けた。頭を洗っている時以外はそれを睨んだ。記憶術の本を読み、夜眠る前には必ず暗記物をやるようにした。
通っていた公立中学の授業はもはや完全に無駄だった。簡単なワークを終えて余った時間で、隠れて塾のテキストをやった。同じ塾の特進Aの菅井君などは、なんと授業中に某R高校の赤本を机に丸出しで解きまくり、先生からベランダに呼び出されて激怒されていた。私はさすがにそこまであからさまにやる度胸がなかったので、「菅井、やるな」と思っていた。
そんなこんなで、私は勉強に明け暮れる中学時代を過ごした。公立中学なので(?)ケンカに明け暮れるヤンキーもいたし、ガチのヤクザの息子もいた。しかしヤンキーたちですら私を天才と認め、温かく応援してくれた。普通にガリ勉と言われていじめられても良さそうなものだったが、私のガリ勉ぶりとそこから叩き出す偏差値は──自分で言うのもなんだが──町内では常軌を逸しており、ほとんど神の領域に達していた(あくまでも町内では)。ヤンキーたちもおそらく私のことを、国の未来を担う逸材だと考えてくれていたのだ。
