リム・カーワイ監督をキュレーターに迎え、日本未公開の台湾映画を上映する「台湾文化センター 台湾映画上映会」。その第2回が5月25日、慶應義塾大学三田キャンパス西校舎ホール(東京・港区)で開かれた。台湾現代史の闇を描いたミステリー・サスペンス大作に会場の観客は身じろぎもせずにスクリーンを見つめていた。(#1を読む

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 この日上映されたのは、『ひとつの太陽』『瀑布』などで知られるチョン・モンホン監督の最新作、『余燼(よじん)』。上映後のトークイベントには赤松美和子氏(台湾文学研究者・日本大学文理学部教授)、本作で日本語字幕を担当した吉川龍生氏(慶應義塾大学経済学部教授)、リム・カーワイ監督が登壇。日本でもファンの多い本作のチョン・モンホン監督はオンライン参加の可能性が予告されていたが、都合が合わずに欠席となった。

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『余燼』台湾版ポスター

『余燼』

2006年、台北の市場で白昼、男が刺殺される事件が発生。警察官の張(チャン・チェン)が捜査を開始すると、他にも不審死・失踪など不可解な事件がいくつも発生していることが明らかとなっていく。一連の事件につながりはあるのか。いまなお社会に燻り続ける「白色テロ」の悲劇と、壮大な復讐計画とが、過去と現在を交錯させながら描かれていく。

2024年/162分/台湾/原題:餘燼/英題:The Embers

監督・脚本:チョン・モンホン/出演:チャン・チェン、モー・ズーイー、ティファニー・シュー、チン・シーチェ、リウ・グァンティン、チャン・イーウェン、マー・ジーシアン、チャン・ジーヨン/©本地風光電影

主演は『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』のチャン・チェン

【まず、赤松教授が本作のテーマである白色テロと制作の背景について解説した。】

赤松美和子(以下、赤松) まず、出演している俳優がとても豪華でびっくりしましたが、白色テロの台湾映画といえば、皆さんエドワード・ヤンの『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』を思い出されると思います。あの映画で14歳だったチャン・チェンが今回主役を演じているというのに感じ入りました。

 白色テロとは、中国語では「白色恐怖」と書きますが、国家権力が反対勢力に対して行う弾圧のことを言います。なぜ白色なのかというと、フランス革命の時、王室のシンボルが白ゆりだったので、その王室を擁護する右派が革命を推進する左派を弾圧したことから白色テロと言われるようになりました。

赤松教授(提供:台湾映画上映会2025)

【台湾の白色テロは一般に1949年から91年までと言われて、政治犯として告発された数千人が処刑されたという。1950年から60年代が最もひどく、性別や年齢、本省人、外省人、先住民といったエスニシティとは関係なく、法律に依拠しない逮捕や投獄、殺害が行われた。】

赤松 この映画が2024年に公開されたというのは大きな意味があると思います。台湾では2016年から2024年が蔡英文政権でしたけれども、その間の2017年に「移行期正義促進条例」が施行されて、それが映画に反映されていたと思います。「移行期正義」とは、民主主義体制に移行した政権が、過去の大規模な人権殺害や虐殺について真相を明らかにし、被害者には保障を与え、被害者と加害者が和解して社会の再建を図るということです。

【本作では、白色テロによって父親を殺され、人生を狂わされた男が当時の関係者を捜し出して復讐していく。国家は何もしてくれないと、自ら手を下す「私刑」に走るのだ。】