リム 加害者をきちんと批判していないとか、なぜ被害者をサイコパスのような復讐者にしてしまったのかと批判されています。SNSなどでは若者の正義感から許せないのではないかと思います。赤松先生も言うように、台湾人にとってはこれはまだ整理できてない問題で、若い人から観ると登場人物の立ち位置に違和感を持ってしまうのでしょう。

赤松 まさに現在進行形の話なんですね。2024年には移行期正義政策の中で5月19日が白色テロ記念日と定められたんです。しかし今は野党が国会の過半数を占めている状態で、その記念日も今月なくなってしまいました。

政治的なテーマにも果敢に挑む姿勢

【最後に台湾映画の魅力について赤松・吉川両氏はこう語った。】

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赤松 私は台湾文学の研究者で、今年『台湾文学の中心にあるもの』という本を出しました。その中で、台湾文学の中心にあるものは政治であるという風に書いたんですけれども、それは映画にも言えるんじゃないかなと思います。政治を含めて社会の今を作品に表していく果敢な姿勢が、台湾映画の魅力の1つではないかと思います。

吉川 娯楽作品としてもよくできていますし、こういった政治的なメッセージにも逃げずにチャレンジしていく。私は『返校』がとても好きなんですけど、あの映画でもホラー的な、ゲーム的な異世界に、白色テロを絡めていました。そんな作品があらわれてくるのが非常に魅力的だと思いますので、『余燼』もぜひ日本で広く観られるようになってほしいと思います。

(左から)吉川教授、赤松教授、リム・カーワイ監督(提供:台湾映画上映会2025)
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