医療ジャーナリストの長田昭二氏(59)は昨年秋、前立腺がんで「余命半年」の宣告を受け、その半年が経過した今も執筆活動を続けている。今回は体調の悪化にともなう、“帰宅時の大問題”について綴った。
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階段を上る足が「動かない……」
がん末期の体調の変化は突然来る――とは聞いてはいたが、こんなに突然だとは思わなかった。
以前取材した在宅緩和ケアの第一人者、東京・品川区にある鈴木内科医院院長の鈴木央医師は、その“変化”のきっかけとして「昨日できたことが、今日はできなくなる」と話していた。
そしていま、僕はその“変化”のまっ只中にある。
前回の小欄に、僕が買ったばかりの杖をついて散歩している写真が載った。この写真は4月29日に担当編集のM氏がわが家の近くまで来て撮ってくれたものだ。
撮影そのものは20分ほどで終わり、しばらく公園のベンチに座って世間話をしていた。「そろそろ帰ろうか……」となって、2人でわが家に戻る。公園からわが家までは、ほんの3分ほどの距離だ。
マンションの入口に着き、「ではまた」と挨拶して別れた。
日本で最初に「マンション」を名乗った築64年のこの建物は、4階建てで、エレベーターがない。
僕の部屋は3階なので、これまで何の苦労もなく階段を上り下りしていた。
ところが、階段を上り始めてすぐ、異変を感じたのだ。
「足が動かない……」
実際には「動かない」のではなく「動かせない」のだが、早い話が、階段を上れなくなってしまったのだ。