『アスファルト・シティ』

 最後も、いい具合に年を重ねた人間の魅力に触れられる一本だ。『メガロポリス』がコッポラの創作した架空のニューヨーク(劇中では「ニューローマ」)なのに対し、こちらは「今の現実」のニューヨークが生々しく映し出される。

 舞台はニューヨークのブルックリン。描かれるのは、救急救命隊員たちの人間模様だ。刻一刻を争う中で必死に人命を救おうとする人々の物語ではあるのだが、その姿は決してヒロイックではない。

©2023 BF MOVIE LLC. All Rights Reserved.

 治安の悪いエリアを担当しているため、彼ら自身も危険な目に遭うこともあるし、暴力事件が頻発して休む間もない。それでいて、搬送する大半は麻薬の売人やギャングのため、彼らを助けることに葛藤が生まれることもあるし、誰からも賞賛されない。それどころか、罵倒され、脅されることすらある。

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 本作は、そうした隊員たちの日常を淡々と捉え、救命の様子もその一環として描いている。そのため、人命救助をめぐる緊迫感あふれるようなエンターテインメント性を期待すると、肩透かしを食らうかもしれない。作り手たちの主眼はそこにはない。過酷な状況下で神経をすり減らし、誰もが人知れず病んでいく――そんな隊員たちのあまりに報われない姿が余すところなく映し出されているのだ。

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 その中心にいる隊員・ラットを演じるのが、ショーン・ペン。当初は頼りがいのある百戦錬磨のベテランに見えるのだが、徐々にその裏側にある闇が明らかになる。人生の蓄積が刻み込まれたショーン・ペンの横顔が、これまでラットの送ってきた地獄の日々を何より饒舌に伝えていた。それだけに、新人隊員とバディ感を築き上げながら、やがてそれが破綻した末に迎える悲劇的な結末は痛切で、最後に見せるショーン・ペンの表情は脳裏に強烈に焼きつけられた。

 もう一人欠かせないのが、その上司を演じる人物だ。なんと、元ボクサーのマイク・タイソンが演じている。これがまたハマリ役。意外なほどナチュラルな演技をしており、「昔はとんでもなくワルだった」という雰囲気を漂わせる持ち前の風貌とあいまって、この地獄をタフに生き抜いてきた叩き上げとしてのリアリティを完璧に表現していた。

監督:ジャン=ステファーヌ・ソヴェール/脚本:ライアン・キング、ベン・マック・ブラウン/出演:ショーン・ペン/タイ・シェリダン/ベンガ・アキナベ/マイケル・ピット/キャサリン・ウォーターストン他
【2023年|アメリカ・イギリス|英語|カラー|スコープサイズ|原作:シャノン・バーク著「Black Flies」|原題:Asphalt City|125分|字幕翻訳:高山舞子|映倫区分:R15+】 配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ © 2023 BF MOVIE LLC. All Rights Reserved. 公式HP:https://ac-movie.jp/  公式Twitter:https://x.com/AsphaltCity_jp
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