『メガロポリス』

 本作も、老いに抗い、生き方を貫ききった作品だ。ただ、ここでそれを成したのは劇中の人物ではない。フランシス・フォード・コッポラ監督だ。

 アメリカでは2024年に公開され、批評的にも興行的にも失敗。その年の最低映画に与えられるゴールデンラズベリー賞の最低監督賞を受賞している。そのため、日本でも否定的な評は少なくないことだろう。

 それもそのはず。本作はコッポラによる自己満足の映画なのである。だが、それこそがこの映画の魅力といえる。

ADVERTISEMENT

©2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

 その自己満足を、コッポラはやりきっていた。自分で多額の制作費を賄い、イマジネーションのままに世界を創作し、伝えたいメッセージをストレートに訴える。やりたいことを、やりたいように、やる。全編にそんなコッポラの強い意思が漲っており、その徹底した貫きっぷりには潔さすら感じられた。

 映画作りというのは多くのキャストやスタッフを動かさなければならないため、監督自身が納得させられる内容にするのは途方もなく困難なことだ。また、完成までには何カ月もかかるから、体力もいる。80歳を超えて、しかも10年以上ぶりの監督となるコッポラが、それをやりきったのだ。

©2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

 一般的なエンターテインメント性には全く欠けているし、高度な映像表現や緻密なドラマ展開があるわけではない。ただ、本作においてはそんなことはどうでもいい。コッポラ自身も、そうしたものを求めて作っていないと思われるし、批判も全く気にしていない。自分のやりたいことをやりきる――。その一点で撮られた作品に対してできる外野の批判は、コッポラが中途半端に妥協をしたり、老いによって自身の描きたいものを描き切れなかったりした場合においてのみ成り立つ。

 が、本作にそれはない。最後の最後までパワフルさを失うことなく、自己満足を成し遂げたのだ。それが、たまらなくカッコよかった。

脚本/製作/監督:フランシス・フォード・コッポラ
出演:アダム・ドライバー、ジャンカルロ・エスポジート、ナタリー・エマニュエル、オーブリー・プラザ、シャイア・ラブーフ、ジョン・ ヴォイト、ローレンス・フィッシュバーン、タリア・シャイア、ジェイソン・シュワルツマン、ダスティン・ホフマン 2024 年/アメリカ/英語/138 分/カラー/原題:Megalopolis 配給:ハーク、松竹  提供:ハーク、松竹 © 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED 公式HP:hark3.com/megalopolis 公式X:@megalopolis_jp