北欧ミステリーを堪能できる『ガール・ウィズ・ニードル』

 今月の1本目は、本年のアカデミー賞国際長編映画賞にもノミネートされた映画だ。

© NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024

 北欧のミステリー映画といえば、とにかく陰惨で重々しい作品が多い。画面越しにも伝わってくる、乾き凍てついた空気。侘しさを感じさせる街並。荒々しい自然。そして、凹凸のハッキリした人々の面相が作り出す、暗い陰――。これら北欧ならではの光景が劇的な効果をもたらし、他所の作品では味わえない苦さを与えてくれる。それこそが、北欧ミステリーの魅力だといえる。

 本作も、まさにそう。

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 時代設定は第一次世界大戦末期~戦後。デンマークのコペンハーゲンを舞台に、貧しさの中であがき続ける一人の女性・カロリーネがたどる地獄のような日常と、その果てに巻き込まれる連続殺人の模様が描かれる。

 戦地に行ったと思われる夫は行方知れずとなり、繊維工場のお針子としてわずかな給金のみで暮らすものの、それだけでは家賃も払えずにアパートを追い出される。ようやく貸して貰えた家は酷いあばら家で、トイレもなくバケツで用を足すしかない有り様。そうした中で、金持ちの男性に見初められて妊娠するも、無惨に捨てられてしまう――。

 どん底の彼女を受け入れてくれたのは、親から託された子どもを秘密裡に養子に出す稼業をしている女性・ダウマだった。そこで乳母として働くようになったカロリーネはダウマと友情を育む。これまでほとんど笑顔を見せたことのなかったカロリーネが、ダウマとの日々では安らかな表情を見せるようになる。だが、それはさらなる地獄への入り口でしかなかった。

 彼女に降りかかる悪夢のような内容は、劇中でカロリーネの受ける衝撃とともに詳らかにされるので、ここでは明かさないでおく。できれば、情報を得ずに見てほしい。

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 石造りの街並や人々の表情が、陰影を強調したモノクロームの映像で切り取られることで、ただでさえ陰鬱な物語がさらに重苦しく伝わってくる。特に、カロリーネが真相に気づく場面での下水道のショットが圧巻。漆黒として映し出される強烈な濁流は、この逃げ場のない絶望の世界を象徴しているようであった。

監督:マグヌス・フォン・ホーン/脚本:マグヌス・フォン・ホーン、リーネ・ランゲベク/キャスト:ヴィクトーリア・カーメン・ソネ、トリーネ・デュアホルム、ベシーア・セシーリ、ヨアキム・フェルストロプ/2024年/デンマーク、ポーランド、スウェーデン/123分/配給:トランフォーマー/5月16日公開/© NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024