ショウ・ビジネスの世界の残酷さを風刺した『サブスタンス』

 本作も今年のアカデミー賞を賑わせた一本。主演女優賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされ、前者は逃して後者が受賞しているところが、結果としてこの映画の本質を表しているようでもあった。

©The Match Factory

 とにかく言えるのは、「よくぞデミ・ムーアがこの役柄を引き受け、そしてやり切った」ということだ。演じるのは元人気女優で、年齢を理由に番組を降板させられるところから物語は始まる。この段階で彼女にとって残酷な役柄と思えるが、まだ序の口。主人公は若返りを可能にする謎の薬物に手を出す。その薬を使うと、主人公の身体の内部から脱皮するかのように、「スー」という若くて圧倒的な美貌を持ったもう一人の自分が出てくるのである。主人公の後釜に座ったスーは瞬く間に人気を獲得していく。

 若い美貌ばかりが女性に求められるショウ・ビジネスの世界の残酷さを風刺した展開なのだが、映し出されるデミ・ムーアの存在自体がその残酷さを体現しているようでもある。顔や身体など、あらゆるところにアンチエイジングのために施した諸々の痕跡がハッキリと出ており、そのことがかえって人間としてのナチュラルさを失わせてしまっている。その不自然な姿を見ていると、そうせざるをえない方向に駆り立ててしまう世界の過酷さが痛々しいまでに突き刺さってくるのだ。

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 本作のデミ・ムーアが素晴らしいのは、そうした自分を徹底して曝け出していることであり、またそんな自分自身が醜いまでにカリカチュアライズされたような主人公像を堂々と演じきっていることだ。主人公とスーは1週間ごとに入れ替わらないと今の姿を保つことができないという設定になっているのだが、スーとしての栄光を手放せなくなった主人公はスーとしての時間を延ばすようになり、やがて――アカデミー賞を受賞した特殊メイクチームの出番となる――グロテスクな存在へと変貌していく。これをやり切ったデミ・ムーアの勇気には、心から感服する。

©The Match Factory

 もう一つの注目点は、全ての元凶である悪徳プロデューサーを演じるデニス・クエイド。これが、話し方や細かい挙動に至るまで、世界最大のプロレス団体WWEを率いてきたビンス・マクマホンにソックリなのだ。役柄自体もそれを彷彿とさせるものがあり、WWEファンの方はそこも楽しめるのではなかろうか。

監督・脚本:コラリー・ファルジャ/出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド/2024年/アメリカ/142分/配給:ギャガ/5月16日公開/©The Match Factory

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