クライマックスに至るまで、ひたすら驚きが連続する『ノスフェラトゥ』

 本作も同様に、ゴシック調の陰影の濃い映像が、近代のヨーロッパの街並を不気味に妖しく映し出す。

© 2024 Focus Features LLC. All rights reserved.

 1922年に製作されたドイツ表現主義の名作映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』のリメイク作でもあるため、展開自体は古典的なドラキュラ伝説そのままといえる。そのため、あらすじだけ読むとオーソドックスな内容としか思えない可能性があり、「なんだ、よくある吸血鬼ホラーか」と軽視してスルーする方もいるかもしれない。

 が、物語を追うというのも映画の重要な受け止め方であるが、それはほんの一部でしかない。それをいかに映像として描写するか。俳優はどのような解釈で人物を表現するのか。そうした視覚情報こそが、映画の特質である。「忠臣蔵」などの古典劇の多くがそうであるように、いくら物語がネタバレしていようが、既視感のあるものであろうが、映し方の工夫一つでいくらでも新鮮な刺激を与えることができる。

ADVERTISEMENT

 本作を撮ったロバート・エガース監督は前作『ノースマン 導かれし復讐者』で「ハムレット」を物語の下敷きとしつつも、理性よりも暴力が支配する、これまで観たことのないような魅惑的なまでにワイルドな世界を提示してのけた。その剛腕は、本作でも発揮されている。主要人物のことごとくが奇人変人。吸血鬼を迎え撃つ教授も、吸血鬼に狙われるヒロインも狂っているのだ。そこに伝染病によるパニックも加わり、人々から日常や常識のタガが外れていく様が、ハッタリの効いた演出とともに描かれる。

© 2024 Focus Features LLC. All rights reserved.

 演じる俳優陣の振り切れ具合もステキだ。教授役のウィレム・デフォーが怪演しているのはいつも通りだが、それに負けず劣らずの奮闘を見せたのがヒロイン役のリリー=ローズ・デップ。母親のヴァネッサ・パラディそっくりの可憐なルックスでありながら、徐々に狂気に憑かれていく様を全身全霊で演じてのけ、デフォーや吸血鬼役のビル・スカルスガルドに決して当たり負けしていない迫力を見せつける。

 え、こんな手段で吸血鬼を倒すのか――というクライマックスに至るまで、ひたすら驚きが連続する一本になっている。

監督:ロバート・エガース/出演:リリー=ローズ・デップ、ビル・スカルスガルド、ニコラス・ホルト、アーロン・テイラー=ジョンソン、ウィレム・デフォー/2024年/アメリカ・イギリス・ハンガリー/133分/配給:パルコ ユニバーサル映画/5月16日公開/© 2024 Focus Features LLC. All rights reserved.