特殊詐欺が約720億円、SNS型投資詐欺が約870億円、SNS型ロマンス詐欺が約400億円(いずれも2024年の年間被害額)ーー。
「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」と呼ばれる反社会的集団による犯罪が増加する一方だ。昨年夏以降に首都圏で頻発した一連の「闇バイト強盗事件」も、トクリュウが関与する犯罪の代表例といえる。
今年1月まで警察庁長官を務め、任期中、トクリュウ対策に尽力した露木康浩氏が、闇バイト強盗事件の指示役を捕まえるための、新たな捜査手法「仮装身分捜査」を導入した経緯を、月刊『文藝春秋』7月号(6月10日発売)のインタビューで明かした。
逆手に取った『仮装身分捜査』
「実行犯は着実に逮捕し、闇バイトの危険性もメディアを通じて広報してきましたが、指示役を捕まえなければ解決しません。そこで闇バイトの募集方法を逆手に取ることにしたのです。それが『仮装身分捜査』です」(露木氏)
仮装身分捜査とは、警察官が架空の人物の運転免許証などを使って闇バイトに応募。実行役に成りすまして、犯罪グループの指示役等とコンタクトを取りながら、指示役の捜査を進める手法だ。実は露木氏は「いつか必要になるだろう」と、十数年前からこのアイデアを温めていたという。
“将来的な課題”と先送りに…
「2011年、法制審議会で『取調べの録音・録画』『取調べの可視化』について議論した時のことです。私も審議会メンバーとして取調べの規制の可否について議論を交わしていたのですが、仮に規制するならば、代替手段の一つとして仮装身分捜査を導入すべきではないかと提案したことがあります。ただ、当時は今のような犯罪情勢でなかったこともあり、『将来的な課題』と先送りされました」(同前)
満を持して『仮装身分捜査』を導入
その後、露木氏が懸念していた通り、匿名アプリを利用した新しい犯罪が増加。満を持して仮装身分捜査を導入することとなった。
「運用のガイドラインを今年1月に策定、実施環境を整えました。実行犯の身柄を早期に確保し、被害の未然防止を図ると共に、指示役や首謀者の特定、実行役の募集そのものの抑止にもつながると考えています」(同前)
6月9日には警視庁が、仮装身分捜査によって、特殊詐欺事件の容疑者1人を詐欺未遂容疑で摘発したと発表した。仮装身分捜査による容疑者摘発は全国で初めてのこと。露木氏の取り組みが早くも実を結んだ形だ。
「文藝春秋」7月号(6月10日発売)及び月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載された露木氏のインタビュー「警察庁長官、トクリュウと闘う」では、安倍晋三元首相銃撃事件や岸田文雄首相襲撃事件後に行った大改革、ルフィ一味逮捕の裏側、悪質ホストクラブの背後にいるトクリュウへの対策、サイバー捜査で日本が優れているポイントなどについても語っている。


