700万円かけて売却に出しても売れない!
この相続人が言うように最終的にはマンション住戸を差し押さえたうえで、競売等にかけて滞納分を回収していくというのが法律上の手続きとなるが、時代環境は変化している。以前であれば、流通市場に売りに出せば確実に売却できたマンションも、立地や築年数、設備の状況などによっては全く買手がつかないマンションも出始めている。競売によって確実に滞納金が回収できるという保証はどこにもない。
管理費の滞納が300万円、住戸内の後片付け費用で100万円、リニューアル費用で300万円、管理組合で計700万円かけて売却に出したものの、売れない。最終的に売却できた金額は400万円だったなどという事例も珍しい事例ではなくなっている。差し押さえるための手続き、弁護士費用などを支払うにも組合員から集めた管理費しか元手がない中、管理組合もおいそれと手が出しにくいというのが現状だ。
相続人のいない「おひとり様」マンションの増加
さらに問題がやっかいになってくるのが、相続人がいないマンション住戸の増加だ。「おひとり様」があたりまえになってきた日本社会。少子高齢化による人口減少は核家族どころか結婚をしない、兄弟、身寄りのない単身者の増加を招いている。こうした区分所有者に相続が発生すると、相続人がいないということになる。
相続人が存在しない、または相続人が全員相続を放棄した場合、マンション管理組合は家庭裁判所等が選定する相続財産管理人と対峙することとなる。つまり管理費・修繕積立金等の請求を相続財産管理人に行うこととなるのだ。通常相続財産管理人を選定する場合は東京地裁などの場合、100万円ほどの予納金を納付しなければならない。相続財産からあらかじめ差し引ければよいのだが、該当金額を引当できない場合はやはり管理組合の負担となる。
こうした住戸は最終的には売却することによって現金化することとなるが、現実は予納金すら回収できないケースも見受けられるのだ。
こうした事態に対して、市場性がないのであれば無理に売却せずに国庫に入れて国から管理費・修繕積立金を徴収すればよいという人もいるが、国が国庫としてとることは事実上ない。仮に国庫に帰属させたとしても法律上、国は「特定承継人」ではないので管理費・修繕積立金等を支払う義務はないということになる。
マンションの永住化? それともスラム化?
管理費・修繕積立金の滞納が多いマンションほど老朽化が激しく、市場における流通性に欠ける物件が多くなる。そうした住戸ほど誰も相続したがらない。相続を放棄する、相続をしても住戸を放置し、管理費・修繕積立金の支払いを免れ続ける。売却しても債務全額の回収には程遠く、そもそも売却すら叶わない、こんな物件が今後急速に増加してくる可能性が高くなっているのだ。
マンション永住化などというが、世代を跨いで価値が持続できない多くのマンションが今後スラム化への道を歩む可能性が高いのだ。そんなマンションに資産価値を求める現代人は、マンションというあやふやな共同体の持続可能性をよく見極めるべきなのだ。