赤い法衣の意味
また、あの赤い法衣は「アビト・コラーレ」と呼ばれる正装で、儀式の場以外では着用しません。食堂では、皆さん、ジャケットやワイシャツといった普段着で食事をします。
アビト・コラーレとは、直訳すると「聖歌隊服」。13世紀以来、枢機卿が典礼儀式などの正式な場で着用することが定められている服装です。緋色のスータン(くるぶし丈の外衣)に白いロシェ(レースのチュニック)を重ね、その上に緋色のモゼッタ(肩掛け)を羽織ります。
映画の中では重厚な赤色に見えますが、実際はもう少しオレンジがかった明るい赤色です。コンクラーヴェではこの正装を着用し、儀式ではない場、たとえば枢機卿総会などでは、黒のスータンに赤い帯を締める格好になります。これがいわゆる平服で、分かりやすく言えば燕尾服とスーツの違いといったところでしょうか。
こうした装いに関する規定をはじめ、コンクラーヴェ前後の進行や手順、祈りの文言、所作のすべては憲章によって細かく定められており、それらをまとめた分厚い手引き書が枢機卿全員に配布されました。厚みはちょうど「文藝春秋」ほどで、イタリア語とラテン語でびっしりと記されています。
一生懸命読み込みましたが、それでも不安は尽きず、コンクラーヴェが始まるまでは、アジア出身の枢機卿たちでワッツアップ(メッセージングアプリ)のグループを作り、「次はこの服です」「次のミサの会場はここです」などと情報を共有して助け合っていました。電子機器が没収された後も、皆さん互いに声を掛け合いながら準備を進めており、映画に描かれていたような殺伐とした空気とは対照的な、和気藹々とした雰囲気が漂っていました。
※この記事の全文(約7400字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年7月号に掲載されています(菊地功「コンクラーヴェ体験記」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。
・「翌朝9時よりバチカンにて」
・「ウェルカム・キクチ」
・映画「教皇選挙」を観ていた
・赤い法衣の意味
・銀の投票壺と赤い糸
・教会が抱える二つのテーマ
・ジェンダーとカトリック教会

