この日の謝罪現場には、21年になくなった相嶋さんの遺族は現れなかった。「現時点で謝罪は受けられない」という理由で、真相解明のための質問を込めた要望書を同社顧問弁護士の高田剛氏に託していた。

 鎌田副総監と森公安部長が去った後、大川原社長は名前を覚えていなかったことに怒る素振りは見せず「あれが精いっぱいの謝罪だったのでは」と微笑んでいた。社名を間違えられたことについても「うちの社名はよく間違えられるので」と流した。

島田元取締役 筆者撮影

「おや、山本さんになっちゃった」「間違えたことより…」

 名前を間違えられた島田元取締役も、「おや、山本さんになっちゃった」とぼそっと口にし、「間違えたことより、二度とこのようなことがないように」と淡々としていた。

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 島田氏はこれまでも、個人を非難する言葉をほとんど口にしてこなかった。自らの取り調べで調書に話してもいないことを書かれたり、逮捕直後の弁解録取(被疑者が言い分を述べた記録)を破棄されるなど、直接的な被害を被った捜査担当の警部補(現警部)についても「個人を悪く言うつもりはない。組織としてこんなことが起きないようにしてほしい」と語るにとどめている。

大川原化工機 筆者撮影

 この日、組織のトップ級幹部が謝罪に現れたことについても「ここまでわざわざ来ていただいてありがたい」と話している。

 歴史的な捏造・冤罪に加えて謝罪の場面でさえ誠実さを疑われる失態をおかした警視庁と東京地検。信頼回復の道は遠い。

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