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ブレイクしきれない“永遠の若手”に共感してしまう漫画家の気もち

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/07/22

先が見えないことを共有しているのかもしれない

 野球選手のほとんどが40歳まで現役でいられない。最低保証年俸は育成選手は240万円、支配下選手は440万円。60歳定年はもう一般企業でもあやしいけれどプロスポーツ選手は最初から現役生活は短いとわかっていてなる職業だ。

 引退後を追う番組が気になる。怪我や病気をしている選手は他球団でも心配になる。先が見えないことを勝手に共有しているからかもしれない。

 こわいから考えないようにしていた、いつまで描けるかなんて。先なんか知らん。才能がないとか言われんでもわかっとる。仕事なくなったらバイトしよう。そして夜に漫画を描こう。よろよろ35年渡ってきた細い橋はいまや足元にあるのかもあやしい。

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 アニメーターになりたての頃に美容院で「アニメ? そんな仕事あるんだー? 漫画家のアシスタントとどう違うの? いくら貰えるの? え? 1枚いくら?」と矢継ぎ早に質問され、最後にはアニメーターや漫画家を志望しながらなれなかった同級生を「結局はそっちの方がかしこかったんじゃないすか」と言われたことがある。この描きたい動かしたいをじゃあどうすればいいんだよ。

 野球選手も投げたい打ちたい走りたいとそれだけでここまできたんだろう。夢はプロ野球選手です、と卒業文集に書いて。夢がまずひとつ叶った人たち。ただただ野球をやりたくてそれが叶ったのにどうしてこんなにもどかしいのか。

 プロになることがもう高い高いハードルの向こうなのにそのなかで上位に行くなんて狭き門にもほどがある。一握りどころかひとつまみだ。そんなに先が無いならやめると言わなかった人が集まっている。この野球をやりたい気持ちはどうするんだと。その気持ちすら人より上回らないとやっていけない。

「永遠の若手枠」を応援せずにいられようか

 永遠の若手枠にはまると出られない。まとわりつくループの輪。永遠になかを走る。去年10年目で安部友裕が活躍した時、ホッとして嬉しかった。やったじゃんあべちゃん! 自打球を申請しないで怒られてたのもむかし! 3塁定着か、と思わせての今年。どうした。堂林、下水流、天谷、岩本、庄司……みんな永遠の若手メビウスの呪いから出て欲しい。ループを嗤う奴らを蹴散らしてほしい。

 長くても20年やれるかどうかのプロ野球人生、わかってて選んだそのチャンス。どうか思う通り願うだけ打席に立てますように。マウンドに登れますように。捕れますように走れますように。ああ、近所のおばちゃんになってる。

 漫画家が描くのを辞めるときは仕事がなくなったときでなく、描きたいものが無くなったときだ。野球選手もそうであってほしい。投げるだけ投げたと捕るだけ捕ったと打つだけ打ったと思って引退する選手はほとんどいないのかもしれないけど。

 永遠の若手メビウスの輪。そんなのただのくだらない呪いだから。輪っかをほどけば外に出られる。きっとみんな「言われんでもわかってる」。毎日走っている永遠の輪っかを引き裂くため練習しているに違いないのだ。

 若手枠から出た世界はそこに見えているからこそループな自分が悔しいはず。もうちょっとで引き裂ける。選手の個々の手には武器がある。引き裂けるはずの武器が。使いこなせないわけない。自分のものだよ。自分で勝ち取った武器だよ。

 再度。応援せずにいられようか。応援するに決まってる。今シーズンのみの新作1年戦争のなかでもがいている選手たち。自分の思う一番かっこいいガンダムになって欲しい。

7月20日の巨人戦で逆転サヨナラ2ランを放った「永遠の若手枠」の下水流昂

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