妻と娘は推しのイベントやファン同士の集まりで全国各地へ行くようになり、時には海外まで足を延ばしました。その間、Aさんは自宅で一人、自炊と仕事の日々です。

「あんたは汚いおじさん」

出費もかさみました。飛行機代とホテル代で20万円、限定グッズ一式で10万円、ライブのチケット代数万円といったお金がポンポンと出て行きます。妻も娘も無職のため、当然その費用はAさんの給料から出ています。そのためAさんは小遣いも大幅に減らされ、まともな昼食をとれずドラッグストアのパンを食べる日々です。体調を崩すことが多くなり、妻に「活動はほどほどにしてくれないか」と言うと、返ってくるのはこんな言葉です。

「○○くんはかっこいいのに、あんたは汚いおじさん」
「私は○○くんに貢献してるけどあんたには存在価値がない」

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気が付けば、Aさんは毎日のように推しと比較して罵倒されるようになりました。

Aさんが「もう無理だ、離婚するしかない」とLINEを送っても、妻から返ってくるのは推しの歌詞に似たポエムのような返信ばかりでした。

限界を迎えたAさんは、私の事務所に相談にいらっしゃいました。「妻はもう病気だと思う。離婚したいです」とおっしゃるのです。

まず、家計の状況やグッズ購入の記録、旅行代の明細などの資料を見せてもらい、さらに自宅の写真を見せていただきました。リビングの棚からキッチンの隅、トイレの壁にまで「推し」の顔。Aさんの「領域」は、もはや寝室のベッドの半分だけです。

私は離婚の交渉の依頼を受けて、Aさんは家を出て1人暮らしを始めました。

「こんなことになっているとは…」

妻宛てに、Aさんの離婚の意思を伝える手紙を送ったところ、返事はなく、代わりになぜか妻の親が連絡してきました。

「娘の問題なので私たちが話し合います」というのですが、50代の妻の両親は80歳前後とかなりの高齢です。

田舎からはるばる出てきた妻の両親は、「娘は親思いのいい子だ。娘には何も非はない。離婚される理由などない」と語ります。そこでこちらからは、妻の生活状況を説明しました。これまでにかかった費用の明細や、家の中に山積みにされたグッズとポスターの写真をお見せしました。まったく家事をしていないこと、Aさんが菓子パンばかり食べて暮らしていることも伝えました。