遊撃手と左翼手が打球を追う中、ボールは左翼手が差し出すグラブの先にポトリと落ちた。6月27日のイーグルス戦(ZOZOマリンスタジアム)。0ー1のビハインドで迎えた初回、二死一、三塁の場面で飛び出した5番打者・井上晴哉内野手の打球は空高く舞い上がった。一瞬、内野フライと思われた。しかし長い滞空時間を経て、野手の間に落ち、これが2点タイムリーヒット。マリーンズは貴重な勝ち越し点を手にした。12メートルの強風が吹いていたことからこのシーンを目撃した多くの人は風による影響と思っているだろう。ただ今年から球場に設置されている弾道測定機器、いわゆる「トラックマン」は一つの数値を導き出してくれた。

「このフライの最高到達地点は44.55メートル。これは15階建てのマンションの最上階に相当します。従って、内野手と外野手はマンションの15階から落とされたボールをキャッチしなければなりません。これにあの日の強風を加味するとキャッチするのは相当困難なことだと思います」(情報分析担当者)

 そう考えるとただの風の読み違いによる落球と思えていたシーンも不思議と深みを感じる。12メートル以上の強風が吹く中、マンションの15階まで到達した打球を獲るのはいくらプロとはいえ、相当な作業だ。

ADVERTISEMENT

 打球を打った井上本人にこの事実を伝えると興味津々な表情で数字に目をやった。「自分は割とライナータイプだと思っている。フライを空高く上げるタイプではないのですがあの時はちょっと詰まって高く上がりましたね。でもタイミング自体は合っていたので、思っていた以上に高くまで上がったのだと思います。結果的には落ちてくれて良かったです」。

最高到達地点の一番低い本塁打はガンダムぐらいの高さ

 ちなみに井上のホームランで一番高く上がったのは6月23日のライオンズ戦(ZOZOマリンスタジアム)。マリーンズファンなら忘れることが出来ない雨の中での劇的弾だ。三回裏、0ー3のビハインドで迎えた二死満塁。カウント2ー2からライオンズ先発今井の151キロストレートを右翼席に運ぶ逆転満塁本塁打。これが高さは34.4メートルに到達。打球速度は159キロで角度は34度。飛距離は118メートルと計測された。

「これまであまり右方向に打ったことがなかったのですが、あれはまるで左打者が放つアーチのように右方向に打球が飛んで行ってくれました」(井上談)

6月23日の西武戦、逆転満塁本塁打を放った井上

 そして本人がライナータイプと分析するように最高到達地点の一番低い本塁打は7月5日のバファローズ戦(京セラドーム)で山岡から放った18メートルの一発。ただ打球速度は172.2キロで自身では今季2番目に速い打球速度となった。

「初代ガンダム、すなわちRX-78-2ガンダムが18メートルなので、ちょうどガンダムぐらいの高さまで上がった打球という事になります。現在、お台場にある実物大のユニコーンガンダムが19.7メートルなので、そこまでは到達していません。ビルにすると6階程度です」(情報分析担当者)

 分かりやすいような分かりにくいような例えだが、打った本人も「お台場のガンダムは見た事があります。へえ、あれくらいですか!」となぜか妙に納得。ちなみにネクストバッターズサークルにいた鈴木大地内野手は「あの打球はヤバかった。インパクトの瞬間に今まで聞いたことがないような凄い音がした。だから弾道は確かに低かったですけど絶対にホームランになると確信していました」と話す。こちらは人間の肉眼と耳で感じた凄さを伝えてくれた。

 マリーンズの主砲として2018年シーズン、チームを大いに引っ張ってくれている井上。球団としては2013年井口資仁監督の現役時以来の日本人選手20本塁打、さらには86年の落合博満氏以来の30本塁打と夢は広がっている。これに数字という素材が加わると、さらに達成への現実味を帯びてくる。