長年培われた職人技術と現代的なデザインを融合させ、独自の存在感を放つ日本の眼鏡ブランド。細部への徹底したこだわりと、使い手への繊細な配慮から生まれるアイウェアは、身に着ける人の知性と美意識を静かに物語る。その最前線で活躍する5つのブランドの最新作を紹介しよう。

Photographs : Yoshio Kato
Styling:Shota Iigaki
Realization : Yuji Kuramochi

3つのパーツが生む究極のミニマリズム

「引き算の美学」を追求した、日本人らしい発想が光る一品。ノーズパッド、左右のテンプルの3つのパーツのみで構成されたマンレイシリーズの最新作は、フレームという概念を根本から見直した意欲的な設計だ。その背景にあるのは「素顔を綺麗に見せたい」という純粋な思い。ネジ穴部分に施されたくびれや、極限まで薄くしたレンズ受けなど、視界から余計なものを排除する職人の手仕事が随所に光る。UVカット・反射防止のクリアレンズを標準装備とした特別仕様により、機能性への妥協も許さない。チタニウムとアンティークゴールドが織りなす上品な輝きが、装着者の品格を静かに主張してくれるだろう。¥63,800/アヤメ(アヤメ☎︎03-6455-1103)

ダブルダッチが呼び覚ます60年代の雰囲気

 ダブルダッチという縄跳び競技からインスピレーションを得たヘキサゴンフレーム。2本のロープが描く美しい軌跡を眼鏡のデザインに落とし込むという発想には、新世代デザイナーの自由な感性が光る。その多角形を活かしながら、デザイナーは1960年代のグラマラスなシェイプを現代に蘇らせることに成功。結果として生まれたのは、ノスタルジアと革新性を絶妙に調和させたフォルムだ。シャープなラインが知的な印象を与える一方で、絶妙なサイズ感による「抜け感」は現代人の求める軽やかさを巧みに演出している。ホワイトゴールドのチタン素材による上質な輝きも印象的で、装着者の審美眼を物語る仕上がりに。¥49,500/ユウイチ トヤマ.(YUICHI TOYAMA.TOKYO☎︎03-6427-7989)

ジャズに捧げるクラシカル・モダン

 アメリカの作曲家ジェローム・カーンの名曲「I'm old fashioned」へのオマージュという、ユニークな出発点を持つ眼鏡である。楽曲を眼鏡で「カヴァー」するという発想自体が、音楽と眼鏡という異なる表現ジャンルを結ぶ試みとして実に興味深い。この音楽的なインスピレーションを具現化するため、デザイナー自身が蒐集してきたヴィンテージ眼鏡のエッセンスを現代的にアレンジ。クラウンパント型のクラシカルなフォルムに「ニューモダン」な雰囲気が融合され、伝統と革新の間で揺れる現代の美意識が表現された。セルロイドとチタンの異素材コンビネーションによる経年劣化のない堅牢性も魅力で、長く愛用できる設計となっている。¥42,900/カーニー(ソスト sost.jingumae@gmail.com)

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ベーシックという名の完成形

「ベーシック」という言葉ほど、実現の困難なコンセプトはない。このウェリントンフレームは、その難題に真正面から挑んだ意欲作だ。適度な丸みを持たせたシンプルなフォルムをベースとしながらも、生地の厚みや太めのテンプルといった「さりげないエッジ」を巧みに忍ばせている。クリングスタイプの鼻あてによって実現されるフィット感と安定性は、快適性への飽くなき追求を物語るものだ。性別や年代を問わない普遍的な美しさを追求しつつ、シャンパーニュカラーが醸し出す上品な存在感により、単なる「ベーシック」を超えた魅力的な仕上がりを実現している。日本人特有の繊細なバランス感覚が随所に表れた逸品といえるだろう。¥38,500/ブラン(ライト☎︎03-5843-0100)

30年を経て甦るアーカイブの進化

 30年以上前にブランドが手がけた名作「73シリーズ」を、現代の技術でよみがえらせた意欲作。当時のデザインコードを丁寧に受け継ぎながら、チタンフレームにプラスチック製インナーリムを組み合わせた独自構造で新たに生まれ変わった。注目すべきは、単なる復刻にとどまらず、「進化」と呼ぶにふさわしい技術革新が加えられている点だ。インナーリムの厚みに上下で強弱をつけることで、立体感と奥行きが生まれ、平面的なデザインに豊かな表情が加わっている。さらに、オリジナル仕様のチタンパッドとテンプルによってノンアレルギー対応を実現。ホワイトゴールドとスモークエクリュによる絶妙な色彩バランスには、日本人ならではの繊細な美意識がにじむ。¥57,200/ルネッタ バダ(ルネッタ バダ info@lunettabada.com)

 これら5つのブランドが示すのは、日本の眼鏡づくりが単なる製造業を超え、文化的な表現手段として昇華している現実だ。職人の手技と現代的なデザイン感覚、そして使い手への細やかな配慮——この三位一体が生み出す「ジャパン・クオリティ」は、日本独特の美意識とモノづくり哲学の結晶なのである。