魂をわしづかみにされました。人生をふり返ることが増えた「レベル40」という節目にこの映画に出会えたことは、運命のギフトだったように感じます。
キャラクターからにじみ出る“愛情や情熱”
まず圧倒されたのは、ストップモーション・アニメという製作手法です。8年という製作期間をかけ、CGやAIに頼らず、13万5000ものコマ数を手作業で一枚ずつていねいに撮り上げられていることに、驚きと喜びを感じました。
CGやVFXの大作が数多く登場している時代ですが、あらためて「人間ってすごいんだぞ! こんなものが作れちゃうんだぜ!」と、前のめりなアナログの強さを見せつけられた気がしました。
ビジュアルタッチは、オープニングからダークで、子どもの頃にトラウマになった絵本を思い出すほど。それが、物語が進むにつれ、どのキャラクターにも愛おしさが湧いてきます。これは、アダム・エリオット監督やスタッフのみなさんによる、手で作ることの愛情や情熱が、端々ににじみ出ているからだと感じました。
主人公は“理想のヒロイン”ではない。でも…
『かたつむりのメモワール』には、いわゆるイケメンや美女は登場しません。しかも、主人公のグレースは、かたつむりを集めることで寂しさを埋めて生きてきた孤独な女性。決して“理想のヒロイン”ではありません。でもその不完全さこそが、リアルな共感を生みだしているように思います。
誰にも頼れず、傷つきながら孤独に生きるグレースの姿には、過去の自分の姿も重なりました。かつて、“普通”からはみ出していた私は、いじめの標的になったことがあったからです。つらい学校生活をやりすごすために、自分の殻にこもる日々。言われた悪口を思い出して苦しくなったり、「自分が悪いのかも」と間違った反省をしたりしないよう、グレースのように、好きなものだけを見つめて息を潜めるように生きていました。


