葉月さんは26歳のとき、全身の毛が抜け落ちる「汎発性脱毛症」を発症した。髪の毛だけでなく、眉毛もまつ毛も体毛もすべてが失われた彼女は、今では脱毛症でも前向きに生きるための工夫を発信するインフルエンサーとして活動している。しかし、46歳の今に至るまでには、過食嘔吐やうつ病、引きこもりなど、壮絶な人生があった。
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「脱毛症の正式名称は『円形脱毛症』というみたいです。円形脱毛症と聞くと、いわゆる『10円ハゲ』のように、髪の毛が丸く抜けるものを想像されると思います。でも、実際には円形に限らず、生え際だけが抜ける人もいますし、症状の出方はいろいろです」と葉月さんは説明する。
葉月さんは厳しい家庭環境で育った。内科医の父と専業主婦の母のもと、テレビを自由に見せてもらえず、門限も厳しかった。「遠足に行くとバスの中でみんなで流行の歌謡曲を歌いますよね。でも、私だけ歌えないんです。友達同士でドラマの話をしていても、話についていけないので、知っているふりをして一生懸命話を合わせていました」
高校時代に始めたダイエットは過食嘔吐へと発展し、19歳でニューヨークに留学した頃には症状が悪化。うつ病も併発して22歳で帰国することになった。その後も過食症はさらに重症化し、「食べるか、吐くか、横になるか」という引きこもりの生活が4年間続いた。
「もう、どうなってもいいや」2階から飛び降りた日
26歳のとき、何気なく頭をさわって「ツルっとした感覚」があり、10円ハゲが見つかった。病院で治療を始めたものの効果は出ず、わずか2〜3カ月で全身の毛が抜け落ちていった。
引きこもり生活の中で、葉月さんは幼少期から抱えていた母親への怒りをぶつけるようになった。「なんであのとき、あんなことをしたの！？」「あのときの、あの発言はいらなかった」と、些細なことで母と喧嘩を繰り返した。
そんなある日、母との喧嘩をきっかけに「もう、どうなってもいいや」と思い、衝動的に自宅2階から飛び降りた。背骨を骨折し、ヘリコプターで病院に運ばれた彼女は「半身不随になるかもしれない」と診断された。幸い2カ月の安静で回復したが、その間に脱毛症はさらに進行していた。
自宅に戻ったある日、葉月さんは洗面台の鏡で自分の姿を見た。「髪はほとんど残っていなくて、ざんばら髪の状態で、一部だけ長く伸びた髪の束がいくつかありました。その束もほとんどすかすかで、まるで落ち武者のようでした」
そんな自分を見てたまらなくなり、衝動的に剃刀で残りの髪を全部剃り落とした。「号泣して鼻水も垂らしながら、自分で自分の髪の毛を全部剃り落としました。それで丸坊主になった自分の姿を鏡で見て、情けないし、ドン底まで落ちたなと救いようのない気持ちになりました」
しかし、そのどん底の瞬間に、葉月さんの中で何かが変わった。「このままの人生は嫌だ」という思いと共に、「ここまで落ちたら、あとは這い上がるしかない」という闘志が湧いてきたのだ。
そこから徐々に回復し、30歳になる頃には心も体も安定して、アパレルのお店で販売員として働けるようになった。脱毛症の治療は続けたものの効果が出ず、ウィッグをして生活するようになった。
脱毛症になる前、19歳のアメリカ留学経験が葉月さんの価値観を大きく変えていた。「アルビノの子がいるよ」と友達から「全身真っ白で、とってもきれいな子だよ」と紹介された経験や、頭を坊主にして大きなタトゥーを入れた女性がかっこよく見えたことから、「異質なものは美しさにつながる」と学んだ。
それでも恋愛面では不安を抱えていた。「髪の毛がないことで、見た目だけで断られるんじゃないか」という思いから、長い間恋愛から遠ざかっていた。しかし35歳の頃、「愛する人と結婚したい」という思いに気づき、婚活を始めた。
脱毛症を伝えたことで振られたり、「付き合うのは難しい」と言われたりすることもあった。それでも前向きに生きる道を見つけた葉月さんは、今では同じ悩みを持つ人たちにとって希望の光となっている。
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