「ヒョンビンさんにしかアン・ジュングンは演じられない」
――なるほど。とてもよくわかります。そのシーンも含めて、撮影(『パラサイト 半地下の家族』などのホン・ギョンピョ)が非常に素晴らしいのですが、時々カメラが俯瞰になりますよね。氷上のシーンもそうですし、伊藤博文を殺害する瞬間もクローズアップにしないで、突然カメラは上から撮ります。普通の監督だったら多分クローズアップで撮るでしょうが、ウ・ミンホ監督があの瞬間を上から取ることにした理由は何ですか?
ウ・ミンホ 銃撃をするシーンは、先に逝ってしまった同志たちの視点から撮りたいと思いました。その視点をこの瞬間に盛り込みたいと思ったんですね。そして、氷上を歩くシーンもカメラは俯瞰で非常に遠くから撮りますが、この広々とした大自然の中に倒れている彼の姿を、とても小さいものとして描きたかったんです。ここで諦めるのか、あるいは立ち上がって歩いていくのか。そんなふうに思わせられるように。そして彼の孤独とか、寂しさのようなもの、そういったものもあの氷上の俯瞰カメラで描きたいと思いました。きっとそういう心境になると思うんですね。
アン・ジュングンであれ、誰であっても、歩くしかないと、歩ききるしかないと思うんです。ウィンストン・チャーチルがこんなふうに言っていましたね。「地獄の道を歩いているのであれば、そのまま進み続けろ。そうしなければ抜けられない」と。きっとアン・ジュングンもそういう気持ちでハルビンまで行ったのではないかな、というように思います。
――「ヒョンビンさんにしかアン・ジュングンは演じられない、と思った」と監督は製作発表の時に語っていたそうですが、その理由は何ですか? とても葛藤の感じられるアン・ジュングンでした。
ウ・ミンホ まさに、どの瞬間もその通りでしたね。アン・ジュングンは恐れを感じながらも同時に、これを成し遂げるのだ、という強い信念がある人物です。彼の色々とないまぜになった、とても複雑な感情を表すことが出来るのがヒョンビンさんという俳優です。特にその悲しみに満ちた瞳、それをヒョンビンさんは数々の作品で見せてきました。
それこそがアン・ジュングンの眼だと思いますし、その眼を大きなスクリーンで見せたいと思いました。テレビではなく、ね。だから最後のシーンも彼の瞳で表現したんです。そして特に列車のシーンが特徴的なんですが、実はずっと帽子を被っているので彼の瞳は一部しか見えないんです。それなのに、アン・ジュングンという人の気持ちが伝わってきて、その瞳を見た時には脅威を感じるほどでした。
実在した人物を演じるプレッシャー
――ヒョンビンさんは今回アン・ジュングンを演じて、何か新しい挑戦というのはありましたか? 歴史上の人物ですが、今まで知らなかった面というのはありましたか?