「京アニから離れたいけど、追いかけてくる」青葉が迎えていた精神の限界
年が変わり、京アニ事件を起こす2019年となった。
青葉には「京アニ」への怨恨が根付いていた。さらには、執心する「女性監督」の活躍を見聞きするなか、嫉妬の入り交じった憎しみを募らせていく。公判では「『女性監督』はどんどん上に行き、自分はどんどん下に行く」と述べている。
同年3月11日、青葉はスマートフォンを解約する。その理由について、第5回公判で「『女性監督』のことをニュースで知ると、マイナスな感情にどんどん動いていくことが自分のためにならないという感覚があった」と振り返った。スマートフォンに自らを操られるくらいなら、持っている意味がないと感じ、手放したという。
動画サイトを使うと、京アニ関係の動画ばかりが出てきて、「自分の精神衛生上、よくないことだと分かっていた」とも語った。
自分の興味や関心にあわせた情報が、アクセス履歴を分析して自動的に集まってくる「フィルターバブル」のことだろうが、青葉にとっては「京アニから離れたいけど、追いかけてくる」事態だった。精神の限界が迫っていた。
自分のことを「底辺の人間」と思い込んだ青葉は、凶器を手にした
青葉は、京アニに託した夢を絶たれ、追い詰められていった。ゆがんだ憎悪は、京アニと「ナンバー2」が手を結び、自分に不都合なことを仕掛けているという妄想を形作った。そんな状況から逃れるためには、「メッセージ性を込めた犯罪をやらなければならない」という考えに至る。
弁護人 メッセージ性を込めた犯罪というのは?
青葉 無差別殺人です。
弁護人 (青葉さんが)離れたいという対象は?
青葉 監視されていること。京アニも入ります。
弁護人 無差別殺人と京アニから離れることのつながりとは?
青葉 大きなことをやらないと、パクったりとか、パクったことをにおわせたりすることをやめないのではないかという思いが強かった。(第5回公判)
「無差別殺人」というイメージが心に浮かんだのは、彼の影響があったからだ。彼とは、世間を震撼させた秋葉原無差別殺傷事件を起こした元死刑囚、加藤智大である。青葉は加藤の名前を公判で何度も口にした。
そしてついに、自分のことを「底辺の人間」と思い込んだ青葉は、凶器を手にした。
そして惨劇へのカウントダウンが、始まった
19年6月のある日、包丁6本を購入し、さいたま市のJR大宮駅に向かった。加藤が秋葉原事件の前に買ったナイフも6本だった。
青葉は、犯行場所に大宮駅西口を選んだ。駅前広場には歩行者用デッキがあり、通勤客や学生が足早に通り過ぎていく。現地に着いた青葉は思っていたよりも人の密集が少ないと感じた。「刺したとしても驚いて逃げられる」と犯行を中止した。
この日は、京アニ事件を起こすちょうど1ヵ月前だった。惨劇へのカウントダウンが、始まった。
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